日本社会から「単身赴任」がなくならない、根本的な理由:スピン経済の歩き方(1/6 ページ)
「4月から転勤することになったよ」と嘆いているビジネスパーソンもいるのでは。家族を残して「単身赴任」する人もいるだろうが、そもそもなぜこのような制度が存在しているのだろうか。歴史をさかのぼると、根深い理由が存在していて……。
先日、朝日新聞社系のニュースサイト「withnews」の『単身赴任繰り返し、引っ越しは15回 「何のため、働いてきたのか」家族から孤立、50代転勤族の嘆き』という記事がネット上で話題になった。
会社に命じられるまま西へ東へと飛び回っているうちに、二重生活の出費が重くのしかかるだけではなく、家族との大事な時間まで失っていた、という「ハード単身赴任者」の訴えは大きな反響を呼び、コメント欄やSNSには「自分も転勤族の家で育ったのでよく分かる」「こんな時代遅れの制度はやめて欲しい」なんて声が溢れている。
ご存じのように、日本の転勤制度は世界の中でもかなり「異常」だ。
もちろん、どの国にも「転勤」という概念くらいはあるが、希望者が赴任するケースが大多数を占め、日本のように嫌がる者を説き伏せて赴任させるなんてことはない。世界では基本的に「契約社会」が多いので、労働者は会社に雇われた時点で互いに取り決めた業務だけを行う。つまり、日本企業のように定期異動でガラッと仕事が変わるなんてことはなく、それと同じ考え方で、「来月から九州支店へ行ってくれ」なんて調子で本人の意思を無視して勝手に勤務地を変えることはしないのだ。
海外の人たちからすると、「オレはこの20年で8回も転勤したぞ」「単身赴任に慣れすぎて、今や家族と会うのは正月くらいだよ、ガハハハ」なんてドヤ顔で語る日本のおじさんたちは、「クレイジー」の一言に尽きるである。
この世界的に見ても「異常な働き方」に近年メスが入っている。「望まぬ転勤廃止」を掲げたAIG損保のような企業に就活生の人気が集まっているほか、転勤を最大5年間猶予できる仕組みを導入しているキリンのような企業も増えてきているのだ。
いいことじゃないか、他の企業もじゃんじゃんやるべきだと思うだろう。筆者もまったく同感である。が、一方でこのような企業側の「働き方改革」だけでは焼け石に水というか、社会全体での「転勤」や「単身赴任」をなくすことはできない気がする。
関連記事
- なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - やはり「24時間営業」はやめなければいけない、勘違いな理由
「ガスト」「ジョナサン」などを運営するすかいらーくホールディングスが、2020年4月までに24時間営業を廃止すると発表した。さまざまなサービスで「24時間営業」は当たり前になっているが、歴史を振り返ると、実は……。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。 - 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。 - 人手不足は本当に「悪」なのか 騙され続ける日本人
人手不足が原因で倒産する企業が増えているようだ。東京商工リサーチのデータをみると、前年度から28.6%も増えて、過去最高を更新している。数字をみると、「人手不足=悪」のように感じるが、本当にそうなのか。筆者の窪田氏は違う見方をしていて……。 - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.