新型コロナで揺れる大型クルーズ船 そのとき「ダイヤモンド・プリンセス」にできたことを考える:クルーズ市場最前線(3/3 ページ)
「法的根拠」の視点で「ダイヤモンド・プリンセス」の対応を論じた前回に続き、今回は運用面から「そのとき何ができたのか」を見ていく。
防疫における責任所在とは
船舶衛生ガイドでは、船舶における感染症対策における責任について言及しています。そこでは、船舶の建造にかかわる設計者と造船会社、船舶を所有して運用する船主と運航会社、上船して運航に関わる船長と乗員、そして港湾当局のそれぞれに異なる責任を求めています。
設計者と造船会社には、国際的に受け入れられている衛生環境を確保できる設計基準の採用を求めており、船主と運航会社には、所有する船舶が「乗客および乗組員が許容できない健康リスクに曝されないように設計され建造されていることを確認」「乗客および乗組員に安全な環境を提供するような形で運用可能であることを確認する責任」を持つとしています。そして、船長には、「乗組員および乗客の健康を守るために全ての合理的な措置がとられることを確認」する責任があるとしています。また、港湾当局に対しては「要求された設備、施設、専門技術および材料を提供」することを求めています。
対策が適切であったか、そうでなかったは別として、新型コロナウイルスの集団感染はクルーズに対する印象に大きなダメージを与えたことは否定しようがありません。これまでも新型インフルエンザの流行などでクルーズ業界は経営的なダメージを受けてきましたが、そのたびに対策を確立することによって市場を回復してきました。ダイヤモンド・プリンセスの事案は、確認された感染者の多さなどを考えると、これまで経験してきた以上のダメージを与えるかもしれません。
だからこそ、人々にクルーズを安心して利用してもらうためには、ダイヤモンド・プリンセスやその他の客船で起きたことを「隠すことなく」公にし、客観的な検証と適切なフィードバックの反映が必要でしょう。このようなことが再び起こることがないように、多くの関係者による意味のある検討がなされることを願ってやみません。
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