国交相発言はみっともない 新幹線の車椅子スペース、増やすための“一手”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
東海道新幹線の新型車両N700Sの車椅子スペースについて、不満を示した赤羽国交大臣。国交省の基準に従って作った設備に対して“物申す”パフォーマンスは勘弁してほしい。実際、同省では新幹線のバリアフリー対策の議論を深めているところだ。もっと便利にするためには……
2020年1月、赤羽一嘉国土交通大臣は東海道新幹線の新型車両N700Sに試乗し、車椅子でも動きやすいフリースペースが少ないと不満を示した(読売新聞2月14日)。N700Sは車椅子に対応するため、通常の座席を取り払って固定装置を付けた場所が2カ所ある。在来車は1カ所だったから、2倍になった。これでも不満だったようで、N700SのSの由来について「Supreme(最高)というが、あまりそういう感じがしなかった」と語った。これはJR東海が気の毒だ。心無い言動であり残念だと思う。
国交相発言の「みっともなさ」
そもそも、車椅子対応座席の整備については、国交省がガイドラインを示し、鉄道事業者が準拠するという枠組みである。「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」の第32条で「客室には(略)車いすスペースを一列車ごとに一以上設けなければならない。ただし、構造上の理由によりやむを得ない場合は、この限りでない」としている。だが、「バリアフリー整備ガイドライン(車両等編)」では、「客室内の車椅子スペースについて2席以上、隣接する通路の幅を400ミリ」だ。
省令では1列車1以上と最低限を定めるけれども、ガイドラインでは1列車2以上にする努力をしてください、というわけだ。N700Sもこれに準拠している。交通部門のリーダーとして、まずはそれが実行されたことを評価すべきであろう。その上で「足りない」と言うのであれば、それはJR東海ではなく、国交省の基準に不備がある。JR東海としては、国交省の省令、ガイドラインに準拠して作った車両について、国交大臣にダメ出しされたという形になった。
JR東海にイチャモンを付ける前に、まずは身内の仕事を見直すべきだ。その国交省の職員にしても、省令やガイドラインを作成するに当たり、適切な座席数を十分に検討したはずだ。乗降客数の多い駅から重点的にエレベーター設置などを推進し、そのおかげで鉄道の車椅子利用者は増えた。その反面、座席指定列車の車椅子スペースは空席が目立つ。現状では鉄道事業者に「乗るか乗らないか分からない場所を作りなさい」とは言いにくい。そうした議論の結果が「1列車2座席以上」だ。ただし、新幹線についてはさらに増やすよう、国交省からJRへ要請しているところであった。
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