「DXか死か」を迫られる自治体の現状――RPAへの“幻滅”が示す問題の本質とは?:IT活用で変化する自治体の今(4/4 ページ)
いま自治体において、デジタルトランスフォーメーション(DX)に注力する先進的な例が見られるようになり、大きな転換期を迎えている。今後10年間、DXに本腰を入れて取り組み続けたか否かで、自治体の明暗ははっきりと分かれることになるだろう。全5回に渡る本連載は、「ITの活用で変わる自治体」をテーマにお送りする。
全庁的な内製プロジェクトという初めてのチャレンジへ
ここまで述べてきた内容を要約すると次の通り。RPAによる業務自動化を進める上では紙の存在がボトルネックとなり、本質的な業務改善を進めるためにはデジタル化が避けられない。とはいえ、業務の種類が膨大な自治体においては、これまでの外注ありきの手法でデジタル化を進めるのは現実的ではない。ノーコード製品をプラットフォームとして、職員の内製による業務のデジタル化を目指すべきでは、ということだ。
とはいえ、多くの自治体は、全庁的なプロジェクトとしてシステム内製にチャレンジした経験を持っていない。これまで自治体で行われてきた「内製」の大半は、Microsoft Access等に詳しい職員が、所属部署の業務を効率化するためにシステム開発をするような偶発的なものだ。
当然、その職員が異動によってその部署から外れてしまえばメンテナンスが困難になり、システムの持続可能性が担保されない。全庁的な業務のデジタル化を進めるためには体制と戦略が必要になるが、ノウハウを持たないが故に失敗するケースもある。
典型的な例として、現場を支援する体制がないケースがある。業務改善を進めるためには、システム開発だけではなく業務の洗い出しや業務フローの整理、関係者の調整といった労力がかかり、通常業務と並行してこれらを担う現場の職員は一時的に負担が増える。これら全てを現場に丸投げしては、多くの場合業務改善は停滞する。ノウハウ提供やプロジェクト進捗管理を支援する部署・人の有無が成功率を大きく左右するだろう。
体制を作った上で、どのようなビジョンと戦略を持てば全庁的な業務のデジタル化は成功するだろうか。また、住民の情報を取り扱う行政において、セキュリティを担保しながら進めるにはどうすれば良いだろうか。次回以降、先駆的かつ本質的な取組を進め、着実に成果を出しつつある自治体のプロジェクト事例から、成功のポイントに迫りたい。
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