東大卒プロゲーマー「ときど」はスランプに陥っていた――ウメハラからの助言、そしてたどり着いた「努力2.0」:東大卒プロゲーマー「ときど」の肖像【後編】(2/4 ページ)
17歳のときに世界一の格闘ゲームの大会「EVO」で優勝したトッププレイヤーの1人である東大卒プロゲーマー「ときど」。スランプに陥っていたときどはいかにして乗り越えたのか。前後編の後編。
「ももち大敗」がときどを変えた
――日頃から強い人と対戦していなかった原因はどこにあったのでしょうか。
アーケードの文化が尾を引いていたんでしょうね。アーケードの対戦って、こっちが勝ち続けている以上、1プレイの料金でずっとプレイし続けることができます。ですので、自分より弱い人と対戦していたほうが回数をこなせるので、練習としては効率が良かったんです。
ただ、当時から強い人が集まるゲームセンターで本当に強い人同士でやると、最初の2,3試合ぐらいは型がはまって勝てるんですけど、すぐにカウンターストラテジーをかぶせてこられるような人には全く勝てませんでした。向こうのカウンターストラテジーに対して、その次の一手を持っていないことがとても多かったんですね。
ですので、昔から自分が長期戦には弱い、「旧・ときど式」って実は浅いんだということは課題としては認識していました。
――そこから「新・ときど式」「努力2.0」に変わりましたね。新ときど式では、勝ちにこだわる姿勢から「負け」の中から答えを見いだし、一人で取り組む姿勢から、ライバルから学ぶ姿勢など、考え方ががらっと変わりました。何がきっかけだったのでしょうか。
僕がスランプに陥ったきっかけが、ももちというプロゲーマーに大敗したことだったんです。そのあと、「ももち対策をみんなでやろうぜ」という話になり、プロゲーマーの仲間内で練習場所を作り、ネット対戦ではなく直接顔を合わせて練習するようにしたんです。これが考え方を大きく変える一番のきっかけになりましたね。
――ライバルと頻繁に顔を合わせるようになったことで、これまでの「ときど式」にはなかった、皆で高め合っていく考え方に変わったわけですね。
その通りです。「旧・ときど式」では自分一人で問題を解決しようとしていましたが、これをやめ、自分一人では「頑張らない」ことにしたわけです。
――仲間からは具体的にどのようなことを教わったのでしょうか。
特にウメハラさん(梅原大吾)からは多くを学びました。僕がスランプで勝てなくなっていた時期、「もうちょっとストリートファイターやってみてもいいんじゃない」と言ってくれたんですね。普段は全然アドバイスをする人じゃないんですけど、だからこそその言葉が響きました。
――ウメハラさんはときどさんの問題の本質を見抜いていたわけですね。
言われた当時、まだ自分でも原因に気付けていなかったんです。4タイトルも5タイトルもやっていた自分のスタイルに原因があるとは思ってもいませんでしたから。
――一緒に顔を合わせて練習するようになったことで、他にも新しい発見はありましたか。
プロゲーマーの世界って日々ものすごいスピードで「正解」が変化していくんです。自分一人だけでは、とてもじゃないですが対応していけません。
これまでは自分が練習で得た新しい発見を独り占めすることで、実戦に生かそうと考えていたわけですが、こういうことをしていると、互いに情報を共有しあっているグループからは置いていかれて結果的に不利になってしまうんですよね。
――ウメハラさんも以前、全く同じ話をしていました。
ですから僕も、自分一人で問題を解決するという考え方を捨て、みんなで切磋琢磨をしていくことでスランプから脱出できたわけです。「新・ときど式」「努力2.0」の考え方になります。仲間に支えられたおかげもあり、スランプは幸いにして1年ないぐらいの短い期間で脱却できたのではないかと思っています。
――状況に合わせて情報を共有し合いながら短期間で変化を繰り返していくやり方は、ソフトウェア開発における「アジャイル」というやり方にも通じるものを感じますね。「新・ときど式」に変わったことで、ときどさんの生活にも「変化」はありましたか。
ただがむしゃらにやるだけではダメなんだということを改めましたね。「旧・ときど式」の考え方だったころは、ゲームを1日に12〜13時間やってたんです。それが今では、1日のうち気合いを入れてゲームをしている時間が3時間ぐらいに減りました。
――時間にして4分の1ですね。
その代わり濃度が格段に違います。以前はネット対戦でアマチュアのプレイヤーを中心に12時間以上戦っていたわけですが、今ではプロ相手に3時間戦っている感じです。プレイしている時間は短いですが、対戦相手から学べることがとても多く、めちゃくちゃ疲れます。
でもおかげで、スポーツジムに通ったり、空手を新しく習い始めたりなど、ゲーム以外のことをする時間が取れるようになったんです。今ではゲーム以外のところからゲームに生かす余裕が持てるようになりました。
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