中国産CGアニメがディズニーやピクサーを駆逐する――市場規模1兆円「中国映画ビジネス」の帰趨:中国アニメ『羅小黒戦記』ヒットの舞台裏【後編】(7/7 ページ)
日本のミニシアターでロングランヒットを続けているアニメ映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』は、中国では2019年9月に公開され、中国国内で3.1億元(約48億円)の興行収入を記録した。アニメビジネスに詳しいジャーナリストの数土直志氏に、アニメ業界で生まれつつある日本と中国との新しい関係を聞く。
アジアをマーケットにした、中国映画や日本映画のビジネスを目指す
――それでは今後も、中国の最新映画を日本でほぼ同時公開することを続けるのでしょうか?
白金氏: そうですね。日本で中国映画を同時公開して、それでお客さんが来るようになれば、チャイナシアターのような中国映画専門の劇場を立ち上げられる。そういったことを、ずっと考えているんです。日本にいる華人華僑をベースにして、そこに中国のコンテンツに興味を持っている日本の方々が集まるような形になればいいですね。
このビジネスモデルが成り立つのなら、日本には在日インド人の方も多いので、インド映画の専門劇場も考えられます。また逆に、ハワイやバンコクといった日本のコンテンツの人気が高い地域で、日本映画を日本国内と同時公開する専門劇場も考えられるでしょう。
さらに言うと、日本で公開する最新の日本映画に、中国語字幕をつけて上映するというやり方もあります。日本を訪れる中国の観光客は、19年には約960万人です。その人たちは日本で公開される最新の日本映画も見たいんだけど、言語の壁がある。だから、この劇場に来ると中国語字幕付きで最新の日本映画が見られる、といった展開もできると思います。
そういった形でアジア全体をマーケットとして、中国映画や日本映画のビジネスを展開できればと思います。もちろん時間がかかりますから、まだまだこれからですけど。
――夢は広がりますね。
白金氏: 映像作品の製作・企画・投資に関しても、いろいろと進めています。日本の大手アニメ会社が作っている22年公開予定の作品には、すでに投資をしています。その他にも面白い日本映画があれば、実写・アニメに関わらず投資します。
企画で今考えているのは、SNS上のコンテンツとして展開されるドラマです。そういう実験的なビジネスをいくつか同時にやっています。今回の『羅小黒戦記』での経験を生かし、日本の若いスタッフに対して、企画や投資をいろいろやっていこうと考えています。
また19年には、『唐人街探案3』という映画の撮影を東京でしました。私はこの作品の日本でのプロデューサーとして、制作に関わっています。このシリーズは1作目をタイで、2作目を米ニューヨークで撮影しています。東京で撮影した3作目には、日本のスターも大勢出演しています。過去2作が大ヒットしているので、20年の旧正月に中国で公開されればこの3作目も大ヒット間違いなしだったのですが、新型コロナウイルスの影響で、公開が延期されてしまいました。本当に残念です。
日本の映画マーケティングの中では、中国の映画やアニメはまだコンテンツとして成立していません。だから投資家も、慎重な姿勢を取っています。いろんなアイデアはありますが、それに対して本気でお金を出して作るのは、また別の話ですから。
だから今の段階で重要なのは、『羅小黒戦記』でテストマーケティングをしたように、データを集めることです。現代社会でいちばんの宝になるのは、データですから。データがあれば説得力が生まれます。そのデータに基づいて、次の手を講じていけばよいのです。
編集部より:前中後編にわたって最後までお読みいただきありがとうございます。中編の冒頭で触れた『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』吹き替え版の情報公開に合わせて、再び記事をお届けします! 以下からメールアドレスの登録をお願いします。
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