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アニメ版『ジョジョ』の総作画監督が指摘「Netflixで制作費が増えても、現場のアニメーターには還元されない」アニメ業界の「病巣」に迫る【後編】(2/5 ページ)

日本のアニメーション業界にはびこる低賃金や長時間労働といった過酷な労働現場の実態――。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』の総作画監督を務める西位輝実さんにインタビュー。後編では西位さんに、Netflixをはじめとする、近年の日本アニメに進出している海外資本のビジネスについて聞いた。

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Netflixで制作費が増えてもアニメーターには還元されない

――海外といえば、最近はNetflixや中国企業といった海外資本で、アニメ業界が潤っているという話も聞こえてきますが。そのことは、アニメーターさんにとってはプラスになっているのですか?

 私の見える範囲では、あまり変化はないですね。Netflixの作品だと予算が通常の2倍ぐらいになっている、みたいな話を聞きますけど、だからといって、アニメーターの仕事の単価が2倍になっているわけではないし。制作会社のほうもそんなにウハウハしている感じもなくて、相変わらずツラそうだなぁと。

――制作会社のほうも景気が良くなった感じではないとすると、どこが儲(もう)かっているんでしょうか?

 話をフワフワと聞いた限りでは、デジタル化も含めた設備投資だとか、それこそ労働基準法への対処も含めて、制作会社が態勢を整える部分に回っているのかなと。そもそも赤字のところも多いですから。

――景気よく入ってきた分は、赤字を埋めただけで終わっていると?

 言ってしまえば、砂漠に雨が降ってきたんだけど、どんどん砂に吸い込まれていって、それで植物が育つほどではなかったんでしょうね。そういう大きな話が、ある程度定期的に来るようになると、また違うのかもしれないですけど。

――日本のテレビアニメの場合は、放送しながら作品を作っているのが大半だと思います。それに対してNetflixは、1シーズン13話なら13話分、全部完成させてからまとめて配信していますよね。だから作業としては大変じゃないかと思うのですが?

 大変ですよね(笑)。納期とかの契約も、おそらく日本のテレビ局よりは厳しいはずですし。私はプロデューサーではないので、そのあたりは詳しくは分からないですけど。

 ただ、Netflixが全部のお金を出して作った作品は、当然NetflixのIPになるんですけど、制作会社が自分で作って、後からNetflixに持ち込んだものに関しては、制作会社がIPを持てるんです。

――最初の1年間とかの放映権をNetflixが独占するのにお金を払って、後から地上波で放送したりするパターンの作品ですね。

 Netflixが完全出資している作品は、制作費が2倍、3倍という話になったりするんだけど、その一方で自社ではIPを持てないし、グッズもDVDも出せない。そうなるよりは自分たちで作って、Netflixでも配信してその分のお金だけをもらうほうがいい、という会社も多くて。中長期的に作品を育てていきたい場合は、Netflixに作品を取られてしまうと意味がないですから。

 ただ、私たち下請けで作っているアニメーターや制作スタジオとしては、どうせIPが持てないのは一緒なんですけどね。

――ではNetflixがやってきても、現場としてはあまり変わらない?

 あんまり変わらないですね。そのへんの契約的なものは、あくまでNetflixと委員会と元請の制作会社との間の話であって、私たちフリーランスのアニメーターからは見えないので。「Netflixだからお金がいいんじゃないの?」って聞かれるんですけど、どういう契約なのかによるので一概には言えない、というのが個人的な感想ですね。

 Netflixだけじゃなくて中国のほうも、中国政府の検閲で全部NGが出ることも増えて、作品を作れなくなったという話を聞きますし。ビジネス系の人たちは、欧米や中国からの話を「黒船じゃないですか!」って持ち上げるんだけど、そこには当然リスクがあるんです。

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西位さんは「Netflixがやってきても、現場としてはあまり変わらない」という(写真提供:ゲッティイメージズ)

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