コロナで変わる、桃鉄・シムシティ的な都市開発:専門家のイロメガネ(5/5 ページ)
TVゲーム「桃太郎電鉄」や「シムシティ」は、戦後日本の都市開発を単純化したものだと言えるだろう。当時の日本では、阪急や西武といった私鉄各社が都市開発をリードしていた。コロナにより働き方や購買行動が変化することで、都市開発、不動産開発がどのように変化するのか。今後のビジネスの変化についても考えてみたい。
小さな変化が生み出す、大きな変化
コロナによる不動産への影響は、狭く考えれば首都圏の不動産価格が多少下落する程度に収まるだろう。コロナ禍が少子高齢化に影響したり、人口減少が地方で大きく進む流れが逆流したりするとは考えにくい。
多くの人に関わるのは、一部とはいえコロナによる働き方の変化だろう。リモートワークによって、ランチを職場の近くで食べる、仕事帰りに買い物をする、飲み会を行う、デートをする、スポーツジムに通う、あるいは出張に行くといった流れが多少なりとも減るのであれば、関連するビジネスへの影響は甚大となる。売上がわずかに減るだけで利益が大幅に削られる企業は少なくない。
これらのマイナスは、間接的には不動産ビジネス、そして都市開発・不動産開発へ影響を及ぼす。一方でスペースが不要、あるいは場所を問わないビジネスに置き換わることで、そのマイナスをプラスへと変換する事業者も現れる。
このマイナスをプラスへと変換する事業者として、筆者が見聞きした範囲では、それがオンラインのピラティスや、配達・持ち帰りに注力し始めた飲食店やゴーストレストラン(客席のない飲食店)、オンラインセミナー(ウェビナー)などがある。
1人で運営するオンラインピラティスに数百人が入会する、数千円のセミナーにオンラインで1000人以上が参加するといったように、従来なら考えられないビジネスの転換がすでに起きている。
コロナで生まれたのは、技術の発展ではなく意識の変化
新たなビジネスが生まれているピラティスも飲食業もセミナーといえども、今後もメインは対面・リアルであることは間違いないだろう。また、オンラインではできないことも多数ある。Eコマースのアマゾンやウェブ会議システムのZoomは、コロナをきっかけに業績を伸ばしているが、全てがオンラインに置き換わることは考えられない。緊急事態宣言の解除後に満員電車が早々に復活したことがそれを象徴している。
しかし一部がオンラインに置き換わったとき、リアルのビジネスにどのような変化が生まれるか? 今後起きるのは「コロナによる大きな変化」ではなく、コロナによって生じた「小さな変化」が、どこで、どのように「大きな変化」を起こすのか、という間接的な変化になるだろう。
コロナで起きた変化が”打ち合わせのスタンダードがZoomになった程度”という認識の場合、ひっそりと進行する大きな変化を見逃すことになるかもしれない。それはビジネスチャンス、あるいはビジネスのピンチを見逃すこととイコールだと言える。
対面がオンラインに置き換われば、飛脚が突然LINEに置き換わるほどの変化が生まれる。筆者のような零細事業者でさえ、ほとんどが対面だったファイナンシャル・プランナーとしての相談がすべてZoomに置き換わるくらいの変化が発生している。
Zoomとほぼ同等の機能を持つSkypeが生まれたのは03年と20年近く前だが、これまで会社員にとって在宅勤務は当たり前のことではなかった。つまり令和になりコロナが流行して、やっと技術の変化に意識の変化が追いついたことになる。緊急事態宣言が解除され、出社が再開することになった知人が「通勤にかかる時間にも給料を払ってほしい」とボヤいていたが、意識の変化はここまで早いものかと驚いた。
「オンラインが当たり前」と人の意識が一部で変わり、時間や空間の制約が一部で消えた時に、桃鉄やシムシティ的な世界とは異なる状況が生まれる。
コロナの生み出した小さな変化の行く末は、都市を変えて人間まで変える、極めて興味深いものになるだろう。
執筆者 中嶋よしふみ
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ゴーン騒動に200億円も支出した日産の判断は正しいのか?(後編)
ゴーン氏が逮捕され、西川廣人氏が不正な報酬授受で退任した後も、極めて疑問の残る支出が発生している。「ゴーン騒動」に日産が払ったコストだ。報道によれば、一連のトラブルに対応する費用は2億ドルにも上るという。
報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任(中編)
メディアでは一斉にゴーン批判の嵐が巻き起こったが、仮に暴走していたのであればそれをとめる役目を負うのは役員であり、その最高責任者は日産の代表取締役社長兼CEOの西川氏にほかならない。ゴーン氏が犯罪を行って逮捕・起訴されたのであれば、西川氏もセットで逮捕されるべきで、西川氏が逮捕されないのであればゴーン氏の逮捕もあり得ないはずだ。
ゴーン国外逃亡で考える、日産前社長の西川氏が逮捕されない理由と検察の劣化(前編)
ゴーン氏の会見後も毎日のように新しい動きが報じられたが、そもそもの発端を理解している人は少ないだろう。世間では「給料をごまかして逮捕された挙句に国外逃亡したとんでもないヤツ」と認識されていると思うが、実際はそのような単純な話ではない。なぜゴーン氏が国外逃亡を選んだのか、なぜ西川氏と検察もまた問題があると断言できるのか、複雑に絡んだ事件を整理してみたい。
大戸屋の赤字転落、原因は「安すぎるから」?
定食チェーンを運営する大戸屋HD(以下、大戸屋)が赤字に転落した。2019年9月期の中間決算では、上場来初の営業赤字として大きく話題に。特に値上げによる客数の減少が赤字の原因と指摘されている。しかし赤字転落の本当の原因は、値上げが足りない事にある。つまり高いからではなく「安いから」赤字になっているということだ。
消費税は弱者に厳しいというウソ 〜逆進性という勘違い〜
消費税は弱者に厳しい、逆進性があるという勘違いに基づく指摘は、結果的に複雑怪奇で史上最悪の軽減税率の導入にもつながった。しかし、消費税に限らず税金はどのように集めるか、そしてどのように使うか、負担と給付をセットで考える必要がある。そして、負担と給付の両面で発生する「二重の累進性」が高所得者には働く。これは消費税の逆進性を打ち消して余りあるほどに大きい。
