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経営者が知るべきゲーム理論 気鋭の経済学者が語る「コロナ禍の行動」と「部下の育成法」ハーバード仕込みの戦略思考(2/3 ページ)

利害関係のある相手がいる状況で、自分と相手の利益を考え、最適な行動を決めるための思考法を「ゲーム理論」と呼ぶ。不確実性の高い現代において、経営層や管理職はどのようにゲーム理論を活用すればよいのか。米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院で准教授・鎌田雄一郎氏に聞いた。

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部下と話し合う時間を設けよう

――経営者や管理職の人と話をすると、ロジカルに提案をしてくる部下を育てることが難しいという話を聞きます。自分の意見を述べるのではなく、Aの時は(1)、Bの時は(2)というように、いくつかのオプションをそれぞれの前提条件と共に述べられるようになってほしいと。

 そういう人は、そもそも「問題を分析しよう」という気概が足りていないのではないかと思います。例えば、私がビジネススクールで教えている学生には、解決してほしい問題を課題として与えます。その際には必ずさまざまな解決方法について、どのように分析して、いかなる解決方法なのかということを、しっかりと数字やモデルを並べて説明してもらうようにしています。ですので、そういう部下たちはぜひビジネススクールに送り込んでみてください(笑)。

――なるほど(笑)。それでは、ビジネススクールに送り込む以外の方法はないでしょうか?

 部下が何を考えているか、思っているかなど、部下と話し合う時間を増やすことがとても重要だと思います。あらかじめ大体の部分は分かっているとしても、実際に話し合うことによって、それまで知らなかった考えを知ったり、自分の意見が変わったりすることはあります。

 『16歳からのはじめてのゲーム理論』でも紹介していますが、ジョン・ジーナコプロス氏とヘラクリス・ポレマルカキス氏による1982年の論文「We can’t disagree forever(われわれは永遠に見立てを違えるということはない)」にも、この話が数理モデルを使って論じられています。たとえ、他の人と意見が一致していたとしても、それは話し合いを終える理由にはならず、もっと情報を共有することによって本質が見え、意見が変わるかもしれないということです。この論文は私が学んできたものの中でも、一番のお気に入りです。

――日本の文化として、あうんの呼吸や以心伝心のような概念が美徳としてありますが、全くその反対ですよね。納得いくまで話をしたり、意思疎通をしたりしなくてもいいような雰囲気は日本企業にまん延していると感じます。最近ではオンラインの会議であっても役職者を大きく表示するような仕組みも出来上がるなど、本質とはかけはなれたところに労力が割かれてしまうことも散見されますね。

 本書にも書いた通り、話をするプロセスによって結論が変わることもあります。そのためには管理職は部下が何を考えているかをさまざまな方法によって把握する必要がありますし、逆に自分の考えを部下に伝えていかなくてはいけません。これは当たり前のことのように思うかもしれませんが、実践するのは容易ではありません。

 本書には書かなかったのですが、ゲーム理論の面白いところは、この「話し合った方が良い」という誰でも言えそうな当たり前のことすらも、数式で表現できてしまうところですね。

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部下と実際に話し合うことによって、それまで知らなかった考えを知ったり、自分の意見が変わったりすることがある(写真提供:ゲッティイメージズ)

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