人口減は予測できたのに、なぜ百貨店は増えていったのか:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
百貨店が相次いで閉店している。その要因として「消費構造が変わったから」「地方経済が厳しいから」といった意見が出てきそうだが、筆者の窪田氏は違う見方をしている。どういうことかというと……。
百貨店の「大閉店時代」がやってくるらしい。
東京商工リサーチによれば8月末までに、山形の老舗百貨店、大沼や新潟三越など地域の名門百貨店など12店舗が閉店したという。
という話を聞くと、「世の中の消費構造が大きく変わっていく中でしょうがない」「東京一極集中で地方経済がボロボロになっていることも大きいのでは」など、さまざまなご意見があるだろうが、筆者は「時代の変化」や「社会」でこの現象を語ることに違和感を覚える。
百貨店で働いていらっしゃる皆さんや、三度のメシより百貨店が好きという方たちを前にしてこのようなことを言うのは、大変心苦しいのだが、百貨店が今のような状況に追い込まれることは、分かりきっていたからだ。
百貨店業界で働く人々がずいぶん昔からみな薄々と勘付いていて、遅かれ早かれ大変なことになるだろうなと心の中で思いながらも、ずっと目をそらしてきたある「問題」を放置していたことが大きい。それは端的に言うと、「人が減っているのに店が多すぎる」問題だ。
筆者のコラム「50年前から分かっていた少子高齢化問題、なぜ回避できなかったのか」でも触れたように、日本では若い人が激減していくので、従来のビジネスモデルは通用しなくなると1960年代から警鐘が鳴らされてきた。そして、その予言通り1999年から戦後ずっと右肩あがりだった労働人口が減少に転じる。
しかし、百貨店には馬の耳に念仏という感じで、全国で主要駅に近い好立地があれば、ドカンと大きな店を建ててきた。もちろん、このような「建てたら儲(もう)かる」という発想は百貨店だけに限った話ではない。百貨店の隣には、若者向けの店が多く入るファッションビルが建てられ、最寄りの駅には鉄道会社がルミネのような駅ビルをじゃんじゃん建てる。さらには、ちょっと離れたところでイオンのような巨大ショッピングモールがドカンと建つ。
つまり、今の百貨店の苦境は、「時代」や「社会」などが招いたものではなく、少子高齢化という問題から目をそらして、小売業がイケイケドンドンで拡大路線を突き進んできた結果、引き起こされた「身から出たサビ」という側面もあるのだ。
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