人口減は予測できたのに、なぜ百貨店は増えていったのか:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
百貨店が相次いで閉店している。その要因として「消費構造が変わったから」「地方経済が厳しいから」といった意見が出てきそうだが、筆者の窪田氏は違う見方をしている。どういうことかというと……。
「建てれば儲かる」時代は終わった
いろいろと厳しいことを言わせていただいたが、このような構造的な問題は百貨店だけに限った話ではない。日本の小売業全体が、かつてのレオパレスのように「とにかく“器”を建てれば客が入って儲かる」という呪いのような思い込みに支配されている限り、同様の悲劇は繰り返されていく。
その「呪い」の根深さは、日本ショッピングセンター協会が発行している「SC白書2020」を読んでみるとよく分かる。これによれば、米国のショッピングセンターは19年に11万5062店。この数は06年からあまり増えてなくて横ばいである。アマゾンが猛威を振るい、ショッピングモールが閑散とするこの国では、新規出店に慎重になるのは当然の経営判断だ。
しかし、日本のショッピングセンター業界の動向はかなり異なる。03年には2611店だったものが、右肩あがりで増え続けて、米国で新規出店がガクンと減った07年にも2804店、09年にはついに3000店を突破して、16年には3211店、そして18年には3220店にまで膨れ上がっている。
19年で3209店と久々の減少に転じたが、それまでは「少子高齢化」や「アマゾン」という言葉がスコーンとどこかへすっ飛んでしまったかのような、お気楽な出店ラッシュが続いている。苦しくなればなるほど「器」をバンバン建てる力学が強くなるという、90年代後半の百貨店と同じにおいがプンプン漂っているのだ。
日本、特に地方経済はいまだに「ものを建てる」ことで成り立っている部分がある。だから、巨額の税金を費やす「市民ホール」や「文化会館」みたいなハコモノにいまだに依存するし、田んぼの真ん中に巨大な商業施設を建てようとする。何かが潰れたら、また何かに出店してもらうことでしか経済が回らない現実がある。
しかし、今の百貨店を見れば分かるように「建てれば儲かる」時代はもう終わってしまった。レオパレスの賃貸アパート、セブン-イレブンのコンビニ、そして、不正がまん延する郵便局……。今、日本で起きているさまざまな問題の根っこをたどっていくと、「数が多すぎる」ことがある。
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