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星野リゾート星野佳路代表に聞く マイクロツーリズム成功の秘訣とポストコロナへの施策「近づけない、集めない」 時代を生き抜く、企業の知恵(1/4 ページ)

コロナ禍でのマイクロツーリズムをはじめとした取り組み、ポストコロナへ向けた展望について、星野リゾートの星野佳路代表に聞いた。

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「近づけない、集めない」 時代を生き抜く、企業の知恵:

 「人が集まる」「人に直接会う」ことで稼いできた企業が、新型コロナを契機に自社戦略の見直しを迫られている。どのようにして「脱・3密」や「非接触」を実現し、ビジネスチャンスを生み出そうとしているのか。

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 緊急事態宣言の解除以降、観光復興を支えた「マイクロツーリズム」。自宅から近い場所を楽しむ旅スタイルで、この「マイクロツーリズム」を提唱し積極的に推し進めたのは星野リゾートだ。

 GoToトラベルキャンペーンに東京が加わり、地域共通クーポンの運用を開始して1カ月。観光庁によれば、開始から10月15日までの利用状況は約3138万人泊、割引支援額は約1397億円となっている。そのうち直近1カ月間の利用は、泊数にして約1449万人泊(総利用数に対する割合が46.2%)、支援金額は約662億円(同47.4%)となり、旅行需要が急速に拡大していることがみてとれる。

 コロナ禍でのマイクロツーリズムをはじめとした取り組み、ポストコロナへ向けた展望について、星野リゾートの星野佳路代表に聞いた。

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星野佳路(ほしの・よしはる) 1960年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院で修士課程修了。1914年に創業した星野温泉旅館の4代目で、91年星野温泉旅館(現星野リゾート)社長就任。長野県出身(以下、写真・画像は同社提供)

危機での生存率をあげるマイクロツーリズム 

――マイクロツーリズムは、言葉としても、旅のスタイルとしても定着しました。この流れを、どうみていますか?

 近場の旅から旅行需要が回復することは、過去の災害時の経験からも推測でき、台湾で運営をする「星のやグーグァン」でも、その動きが先行して現れていた。近場の旅を後押しする、分かりやすいネーミングが必要だと考え、社員と一緒に熟考して生まれたのが「マイクロツーリズム」だった。

 マイクロツーリズムは、自宅から1、2時間の小旅行だ。誤解している方も多いが、単に県境をまたがないというものではなく、それぞれの観光地が独自の商圏をもっている。感染拡大が懸念される時期においては、マイクロツーリズムは安全・安心に旅ができる有効な手段となるし、ウィズコロナだけではなく、ポストコロナでも重要なマーケットだと考えている。

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マイクロツーリズムの商圏

――ポストコロナでも重要とは?

 今回の経験で学んだのは、コロナのような危機的状況は定期的に訪れるものであり、備えが必要ということだ。私が経営を引きついだ30年の間にも、バブル崩壊、不良債権処理、リーマンショック、東日本大震災、原発事故、そして今回のコロナと、既に6回も訪れている。そのたびに「100年に1度」といわれるものの、実際には5年に1度は起こっている。

 観光業は底堅い需要があるものの、一時的に需要が冷え込むリスクは大きい。マイクロツーリズムはそういった危機でも生き残る確率を上げてくれるものだと考えている。

 治療薬やワクチンの開発に伴い、訪日旅行者もいずれ戻ってくるだろう。だが、そういった中でもマイクロツーリズムの旅行者は、意識的に受け入れていきたいと思っている。近場ということでリピートが見込め、ボリュームが確保できる。常に一定の割合を保つことで、不測の事態が起こっても稼働が9割減ということはなくなるだろう。

――マイクロツーリズムを成功させる上で重要なことは? 

 近くからの来訪者を強化するにあたり、大きく2つの取り組みを行った。

 1つは、よく知っているからこそ、新しい発見をする機会を創出することだ。例えば、温泉旅館ブランドの「界」では、全施設で料理の先附を、地元素材を使いながらも調理法などを工夫した。界 日光では、地元の人が食べなれた湯波で新しい魅力を感じてもらおうと、コンソメを湯波にあわせ洋風にアレンジをしている。

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界 日光では、地元の人が食べなれた湯波で新しい魅力を感じてもらおうと、コンソメを湯波にあわせ洋風にアレンジをしている

 青森県の奥入瀬渓流ホテルでは、紅葉の美しい10月に、早朝の奥入瀬渓流をオープントップバスで楽しむツアーを実施した。見慣れた景色も視点を変えると新鮮な体験になる。

 もう一点は、情報発信方法を変えることだ。コロナ前は、遠方や海外からの旅行者向けの施策が自然と多くなっていた。例えばOTA(オンライントラベルエージェンシー)などがそうだ。自宅から近い宿をOTAで探す人は少なく、マイクロツーリズムの集客手段としては弱い。タウン誌や地元紙など、地元にリーチするチャネルの発掘をこの機に行った。

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青森県の奥入瀬渓流ホテルでは、渓流をオープントップバスで楽しむツアーを実施
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