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大赤字のANA救済 JALとの統合は「最悪のシナリオ」磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(1/3 ページ)

「JAL、ANA統合論」の行方は?

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 韓国の航空最大手である「大韓航空」が、同国2位の「アシアナ航空」を買収することが決まった。新型コロナウイルスのまん延による航空需要の激減で、経営危機に陥っている航空2社を政府主導で統合することで、生き残りを目指す。政府系の「韓国産業銀行(KDB)」が大韓航空の持ち株会社「韓進KAL」の第三者割当増資を引き受け、大韓航空はその資金を使ってアシアナの第三者割当増資を引き受けて同社を子会社化する。買収総額は1兆8000億ウォン(約1700億円)を見込む。

 両社の統合によって、旅客と貨物の輸送量を単純合算すると、世界で10位程度の大航空会社になると報じられている。もっとも、これは新型コロナ前の数字の単純合算で、決して、規模の拡大による成長を狙った前向きな統合話ではない。新型コロナで国際間の人の移動が止まり旅客の激減に直面している世界の航空会社は、生き残りをかけてさまざまな手を打っている。早々に法的処理を決断、いったん経営破綻させたうえで、再建の道筋を探っているところも多い。タイの航空大手「タイ国際航空」やメキシコの航空大手「アエロメヒコ」、ブラジルの航空最大手「LATAM航空グループ」のブラジル部門などだ。

 一方で、欧州の航空大手「ルフトハンザ」や「エールフランスKLM」のように、政府が資本注入したり資本性資金を融資したりすることで、危機を乗り越えようとしているところもある。ルフトハンザはドイツ政府が20%出資するなど90億ユーロ(約1兆1000億円)にのぼる救済策を実行に移した。もっともEU(欧州連合)は競争法で政府の出資を厳しく制限していることから、政府からの資本注入は受けたものの、政府支援からの早期脱却を前提に、2割近い社員の削減など大規模な事業構造の見直しを行っている。

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JALとの統合は「最悪のシナリオ」か?(写真提供:ゲッティイメージズ)

「JAL、ANA統合論」の行方は?

 大韓航空によるアシアナの買収は、これまで韓国政府が進めてきた民間企業同士の競争促進という政策を事実上棚上げするものだ。韓国ではこれまでLCC(格安航空会社)の参入が盛んで、競争激化によって、新型コロナ前からアシアナは経営難に喘(あえ)いでいた。国の支援で巨大航空会社が誕生することにLCC各社は猛烈に反発している。LCCも経営が成り立たなくなっており、このままでは「実質国営」の1社に収斂(しゅうれん)されていくのではないか、という危機感がある。

 大韓航空とアシアナ統合のニュースを受けて、日本でも「JAL、ANA統合論」などが語られ始めている。航空需要の激減は日本でも状況は同じで、両社の業績が急速に悪化しているためだ。

 全日本空輸(ANA)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD)が発表した2020年4〜9月中間期の連結決算は、純損益が1884億7700万円の赤字(前年同期は567億8700万円の黒字)に転落した。新型コロナの影響で、売上高が2918億3400万円と前年同期に比ベて72.4%の大幅減少になった。売り上げが1割減っても大打撃なのに、4分の1近くに減ったのだから凄(すさ)まじい。

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ANAホールディングス(ANAHD)が発表した2020年4〜9月中間期の連結決算は、純損益が1884億7700万円の赤字(前年同期は567億8700万円の黒字)に転落(ANAホールディングスのWebサイトより)

 国際線の旅客数が19万人あまりと、前年同期の517万人に比べてわずか3.7%にまで落ち込んだほか、国内線の旅客数も467万人と、前年同期の5分の1になった。運休・減便や、使用航空機の小型化などを行ったものの、固定費負担が重く、営業損益は2809億5000万円の赤字(前年同期は788億8000万円の黒字)に転落した。

 夏以降、政府の「Go To トラベル」施策などによって、国内線は観光客が戻ってきたものの、国際線は相変わらずの運休・大幅減便が続いている。秋になって欧米での感染者が再び急増、死者も増えている。11月後半以降、日本国内でも感染者数が増加しており、Go To トラベルの一部利用自粛などが呼びかけられている。このままでは下期も大幅な営業赤字が続く。2021年3月期通期は連結決算としては過去最大の5100億円の最終赤字(前期は276億5500万円の黒字)を見込んでいる。

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11月後半以降、日本国内でも感染者数が増加しており、Go To トラベルの一部利用自粛などが呼びかけられている。このままでは下期も大幅な営業赤字が続く(写真提供:ゲッティイメージズ)
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