『半沢直樹』黒崎検査官の“悪役”イメージは本当? 金融庁の役割を中の人に聞く:「ダメ出しをするのがつらいときもあります」
多くのビジネスマンにとって金融庁は、金融機関を厳しく監督・監視するところ、もしくはTBSドラマ『半沢直樹』の黒崎検査官のイメージではないだろうか。それは金融庁のほんの一面でしかない。金融庁と金融機関の関係について、金融庁総合政策局の稲田拓司氏に伺った。
多くのビジネスマンにとって金融庁は、金融機関を厳しく監督・監視するところ、もしくはTBSドラマ『半沢直樹』の黒崎検査官のイメージではないだろうか。それは金融庁のほんの一面でしかない。
金融庁と金融機関の関係について、金融庁総合政策局の稲田拓司氏に伺った。
厳しい目線の先にあるのは、金融機関の顧客を守るという使命
半沢直樹と対峙する黒崎検査官は、その言動も手伝って悪役のように映る。しかし、ドラマを最後まで見た視聴者であれば、「黒崎、半沢のこと好きすぎる」という感想を持つはずだ。実際の金融庁と金融機関の間柄もそれに近い。
金融庁は、金融機関でシステム障害やセキュリティインシデントなどのトラブルが起きた際、その原因や再発防止策についてモニタリングをする役目を担っている。
2020年10月に東京証券取引所のシステム障害が発生した際には、東証とJPXに対し、金融商品取引法に基づく業務改善命令を出した。障害が発生した機器の不備を把握できていなかったことや、売買再開のルールが整備されていなかったことを指摘するとともに、迅速な再発防止策の実施や責任の所在の明確化、そして金融庁への定期的な報告を求めた。
東証は、18年10月のシステム障害を契機にさまざまな対応を講じてきたが、そのうえで20年10月の障害を防ぐことができなかった。金融庁は「再びシステム障害が発生し、終日全ての取引が停止に至ったことは投資者等の信頼を著しく損なうもの」として、事態を重くみた。
金融庁の目的は、トラブルを起こした金融機関の責任を問うことではない。そこから再発防止のヒントをつかみ、広く他の金融機関にも周知することだ。金融機関の合併や大規模なシステムの統廃合、また、暗号資産交換業者やデジタルバンクといった新たなジャンルの金融機関がサービスインする際にも、システム設計やサイバーセキュリティ対策、窓口業務の教育に至るまで徹底的に不備を洗い出す。金融庁に蓄積されてきた古今東西さまざまな金融機関のアンチパターンが、ほころびを見つけ出す目を研ぎ澄ましている。
「正直、ダメ出しをするのがつらいときもあります」、そう稲田氏は語る。「時には、金融機関の取り組みに、『これは危ない』とブレーキをかけなきゃいけない。早い段階でリスクに気付ければいいのですが、最後の最後になって発覚するケースもある。そうなると『カットオーバーの延期を検討』といった話をしなければならないこともあります。延期すれば、金融機関の経費負担は何十億円も増える可能性がある。でも、リスクをそのままにして突っ走ることで最終的に被害を受けるのは顧客、国民の皆さんです」(稲田氏)
厳しい目線の先にいたのは、顧客だった。顧客の信頼が損なわれれば、金融サービスは成立しない。システムを含む金融機関の顧客保護態勢をモニタリングし、正し続けることで、金融機関の信頼獲得を影で支えるのが金融庁の重要な役割だ。
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