「厳選採用」時代、中途採用戦略の立て方とは? カギは雇用形態と成長フェーズ:これからの採用戦略を考える(1)(2/2 ページ)
コロナ禍により採用予算が削減されたことが要因で、多くの企業で余裕をもった人材採用が行えなくなった。「厳選採用」の傾向が続く中、できる限りミスマッチのない採用を行うために、ますます重要になっているのが「採用戦略」だ。
一方、欧米企業では、人が辞めることを前提に採用を行っている。
企業は、課題解決に必要なスキルや能力を持つ人材を外部から採用する。採用の目的はあくまでも課題解決であり、数十年にわたって雇用を守ることではない。採用時に求めるスキルと能力が明確に定義され、その成果が達成されたときの報酬や昇格制度も体系化されている。
そのため、採用後に会社の都合で職務を勝手に変えることはできない。スペシャリスト(専門職)としての経験を買われることが採用の習わしであることから、職種変更は労働者のキャリアダウンや市場価値の低下にもつながる。よって、労働者も職種を変えてまでその企業に居続けることを望んでいないケースが多く、その仕事の必要性が無くなったり、余剰人員となったりした場合は、退職するのが一般的だ。
これが、外資系企業がドライだといわれる理由の一つだろう。しかし、労働者にとっても、自分が価値を提供できる環境でスキルアップし、企業と目的が一致する限り働き続け、お互いの利益が一致しなくなればおのおのがベストな選択を取る、という非常に合理的な考え方なのだ。これが、外資系企業が行っている欧米式の「ジョブ型雇用」である。
近年、大手日系企業でもジョブ型雇用が導入されたり、今後の導入が検討されたりしている。しかし、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は、それぞれの文化的背景と企業の成長戦略の上に成り立っていることを忘れてはならない。
自社に適した採用戦略を組み立てることこそが、企業を成長させるために最も重要だ。今後、日系企業においてジョブ型雇用といわれる専門職採用が普及しても、欧米のジョブ型雇用と同じ形式にはならないだろうと予測している。
成長フェーズに適した採用戦略を
全ての企業が一概に当てはまるわけではないが、企業の成長フェーズごとでも適切な採用戦略は異なる。
外資系企業、日系企業に関わらず、スタートアップ、またはベンチャー企業ではメンバーシップ型の採用が望ましい場合が多い。企業の創業期、成長初期においては、何が起こるか予測できないことが多く、売上を上げるために事業を方向転換することも起こり得る。
そのため、仕事の内容ではなく、企業理念に共感し、一緒にビジネスを大きくするために何でもやるというマインドの人が、事業の推進に貢献できるのだ。この場合、特定の経験や知識、スキルよりも、バイタリティー、企業や商品・サービスへの思いの強さが、採用時の重要な判断指標となる。
極端に言うと、仕事に対する人材募集ではなく、その会社に属して働いてもらうための採用となる。言うまでもなく、市場に対する人材獲得のアプローチも、それに適した方法で進めなければならない。選考の段階から、会社の成長における課題を共有し、企業成長のマイルストーンを擦り合わせ、今後の事業展開や会社の成長が目的の採用であるという視点を合わせることが不可欠だ。応募者が企業の成長を軸とした採用であることを理解し、企業の成長と共に自身の役割を変えていく決意がなければ、採用後のミスマッチが起きる可能性が高くなる。
一方で、ジョブ型雇用といわれる専門職採用が効果を発揮するのが、成長後期から安定期に入っている大企業だ。
企業の課題やニーズが明確化し、職種や役職ごとに期待される役割と成果が明確になっている時期である。この場合、入社後に期待する仕事での結果と数年先までのキャリアプランを、採用側がしっかりと描いておかなければならない。面接は人物像を確認するだけでなく、これらの期待値の擦り合わせを行う場である。
専門性を求める代わりに、企業は労働者がスペシャリストとして刺激を受けながら成長できる環境を提供し続け、要求した成果を達成した時の褒賞制度も整えておかなければならない。これが、ジョブ型雇用で採用した人材の活躍を促すための一つの方法であり、ひいてはその後の定着にも影響する。
会社の規模や資本形態、雇用形態などに踊らされず、企業の現状と目標をしっかりと見定めた上で、自社の目的を達成するためにベストな採用戦略を選択していただきたい。
関連記事
- 「一部の人だけテレワークは不公平」の声にどう対応した? ユニリーバの自由な働き方「WAA」が浸透した背景を探る
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスでは、2016年に人事制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を制定し、働く場所と時間を社員が選べる新しい働き方を取り入れた。しかし、工場やお客さま相談室など、一部の従業員は制度の対象外だった。「不公平」という声も上がる中で、どのように制度は浸透していったのか。島田由香さん(取締役人事総務本部長)に聞いた。 - フリーアドレス、業績連動評価、年俸制……良かれと思った施策が失敗した理由とは?
あらゆる人事施策には、メリットとデメリットがあります。他社にとっては良い施策でも、自社で導入してみると合わなかったということも起こり得ます。今回は、フリーアドレス、業績連動評価、年俸制の3点について、よくある誤解とその原因、対策を事例を交えてお伝えします。 - 内定辞退が減少、時間や金銭面も効率化! ユナイテッドアローズが挑むオンライン研修の舞台裏
コロナ禍で迎える2度目の入社シーズンに向けて、企業は研修体制の抜本的な見直しが迫られている。ユナイテッドアローズでは、オンライン研修を取り入れたことで新人と“密”なコミュニケーションを取れただけでなく、内定辞退率の減少や、実店舗での素早い戦力化につながっているという。また、管理者向けの研修では、大幅な時間削減と、コストカットを実現した。具体的な研修方法やオンライン研修による成果について聞いた。 - テレワークでも「話しやすい」組織の作り方 心理的安全性を守る毎日の習慣とは?
組織として高い目標を目指さなければならない場合、年次や役職に関係なく互いに意見を戦わせながら学び合い、成果を出し続けることが必要です。しかし「部下に発言を促してもなかなか意見や提案が出てこない」といったお悩みをお持ちの管理職や、「自由闊達な意見交換ができる社風の作り方が分からない」という人事担当者も多いのではないでしょうか。「話しやすい」組織にするための実践法をご紹介します。 - 驚異のテレワーク率「9割超」 営業利益16倍の企業は、生産性が「下がった」社員をどのようにケアしたのか
「ほぼ」完全テレワーク体制を確立し、本社オフィスのスペースを半減したアステリア。社内では10〜11%の人が「生産性が下がった」と回答したそうだ。彼らに対し、どんな対策を実施しているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.