「DS3 クロスバック E-TENSE」 100年に渡る物語が導いたEV:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/6 ページ)
本稿は、米欧2地域にまたがる世界第6位の自動車メーカーが誕生するのに至った歴史的背景の興味深さをひも解くと同時に、この度日本への上陸を果たしたPSAのフラッグシップブランド「DS」のEV、DS3クロスバック「E-TENSE」の立ち位置を解説しようという目論見で書かれている。E-TENSEEにはリアルな未来の先取りを感じるのである。
1月16日、プジョー、シトロエンなどを中核とするフランスのグループPSAと、フィアット・クライスラー・オートモービルズが合併し、新たに多国籍自動車メーカー、ステランティスが誕生した。
アバルト、アルファロメオ、クライスラー、シトロエン、ダッジ、DS、フィアット、ジープ、ランチア、マセラティ、オペル、プジョー、ラム、ボグゾールという14ブランドを傘下に収める巨大アライアンスである。マニアックな話で恐縮だが、居並ぶブランド同士の実に因縁深い組み合わせが感慨深い。
100年に渡る物語の始まり
第二次大戦後の自動車世界にとっては、世界に比類ないナンバー1市場は、圧倒的なまでに北米マーケットであった。だからこそ米国のトップ3が、すなわち世界のビッグ3として名を馳(は)せた。いうまでもなく、GM、フォード、クライスラーの3社である。
そもそも自動車はドイツで発明された。フランス説などの異説もあるが、少数派意見である。19世紀末に登場した自動車はそもそもワンオフ生産の富裕層のおもちゃに過ぎなかった。大量生産という方法によって、大衆に供される日常の移動手段として、1908年にこれを再発明したのがフォードで、それこそが有名なT型フォードである。
自動車の大量生産という概念はすぐに欧州に持ち込まれ、米国生まれのこの新しい概念で、19年に欧州初の大量生産を始めたのがシトロエンである。シトロエンはこの大量生産システムで大成功を収め、世界第4位の自動車メーカーにまで上り詰めた。
しかし、シトロエンの成功は長く続かなかった。次々とニューモデルを投入し、財政に不安を抱える局面に、29年の世界恐慌の打撃が加わる。最後の望みを賭けて開発されたのが、シトロエンの代表作の一つとなった7A、通称トラクションアバン(前輪駆動)だ。そのために工場の大々的なリニューアルまで計画した。
しかし残念なことにこのトラクションアバンの完成を待たずして、シトロエンは34年に財政破綻に陥った。買手として名乗りを挙げたのはGMとミシュランだったが、フランス政府の仲介により、次のオーナーはミシュランに決まった。すでにこの時、米国の自動車メーカーが欧州進出を目論んでいたことが分かる。
当時のマーケットは実質的に二大マーケットであり、北米以外のマーケットといえば、大西洋を挟んだ欧州マーケットのことを意味した。日本を含むアジアはまだまだグローバル市場の一要因として認識できる時代ではなかった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
400万円オーバーのBセグメント DS3クロスバック
一般に高級ブランドというものは、長い歴史があり、ブランド論がとやかく言われる前から「高級品」として世の中にイメージが共有されているものである。DSは2010年代という、技術もマーケティングも高度に発達した時代にこれに挑もうとしている。そこは大変興味深い。DS3クロスバックがこれにどう挑むのか。
MX-30にだまされるな
マツダの電動化の嚆矢(こうし)となるMX-30をどう見るか? このクルマのキャラクターをつかもうと思うのであれば、変化球モデルだと思わない、スポーツ系モデルだと思わない、ついでにフリースタイルドアのことも電動化のことも全部忘れる。そうやって全部の先入観を排除して、普通のCセグのSUVだと思って乗ってみてほしい。その素直で真面目な出来にびっくりするだろう。
テスラModel 3をどう評価すべきか?
テスラは既存の自動車産業をおとしめ、フェアでない批判を繰り返してきた。ただしコロンブスの卵的発想でプレミアムEV市場を作り出し、EVのイメージを変えた功績は認めざるを得ない。そのテスラの正念場がModel 3だ。プレミアムEVメーカーから脱却し、量産EVメーカーになれるかどうかはModel 3の成否にかかっている。
新型プジョー508は魅力的だが……
PSAグループのプジョーが新型プジョー508を発売。デザインとハンドリングに集中して開発を行うことで、カッコよく走って楽しいクルマを目指した。一方で、選択と集中の結果、犠牲になったものもいろいろとある。
フランスの高級車復活に挑むDS7クロスバック
戦後のフランスでは高級車のマーケットが激減。その結果、大衆車をメインとするメーカーだけが残った。2014年に設立したDSオートモビルズは、シトロエンの上位ブランドとしてフランスの高級車復活に挑んでいるというが……。
