駅ナカ自販機が最大39.5%の売り上げアップ! 陳列商品を提案するAIがすごい:コロナ禍なのになぜ?(2/3 ページ)
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、人々は外出を控えるようになった。駅ナカの自販機の売り上げはさぞかし下がったことだろう――そう思いきや、実はJR東日本の駅構内にある「Acure」ブランドの自販機は売り上げを伸ばしているという。その要因は、JR東日本ウォータービジネスが導入したAIシステムだという。その正体と、効果とは?
属人的なオペレーター業務を改善
HIVERY Enhanceについて紹介する前に、Acureの自販機がどのように運営されているかについて簡単に説明する。運営・商品開発するのはJR東日本ウォータービジネスだが、実際の運用はオペレーション企業に任されている。任せているのは、商品の補充、現金やごみの回収、機体の交換などの業務だ。
陳列・販売する商品の7割はJR東日本ウォータービジネスが指示するが、残り3割は現場のオペレーターが選定する。オペレーターは自販機が持つ特徴――どのようなエリア、ロケーションに置かれているか、何が売れているかなどを考慮して商品を決める。
経験豊富なオペレーターであれば、適切な商品選びを行える。その反面、属人化しやすい。そのため担当者が変わってしまうと、途端に売り上げが落ちるなどの課題を抱えていた。
HIVERY Enhanceは、1台1台の自販機の売り上げ実績データを取得する。さらに設置場所の気温や天候の長期予測情報をそのデータに加味したうえで、各飲料の売れ行きを予測し、売れそうな販売商品の選定、最適な陳列順や適切な補充回数などを導き出し、その情報をオペレーターに案内する。
同システムの導入により、「自販機の特徴を捉えて、3割の商品を選定する」という作業が、経験の浅いオペレーターにもできるようになり、経験豊富なオペレーターであっても時間短縮につながった、というわけだ。
本格導入まで3年──長い歳月が必要だった理由とは?
JR東日本ウォータービジネスが豪ベンチャー企業HIVERYに出会ったのは16年のことだ。豪コカ・コーラが採用している、とのことで社内で検討を重ね、17年夏にデータをExcelや帳票という形で出力したものの提供を受けるところから始めた。システムそのものを導入しなかったのは、コストを考えてのことだった。
当初、オペレーション企業3社を選び、定期的にExcelデータを渡して現場に反映してもらっていた。その後、東野さんは上長らと一緒に現地視察に行き、現場に定着するまでコカ・コーラでも2〜3年かかった、という話を聞いた。
「できるだけ早い時期に本格展開したかったが、結局20年度になってしまった」と東野さん。18年度に課題の洗い出しとエリア選定を始め、19年度もエリア選定に注力した。
エリアを選定しなければならなかった一番の理由は、費用対効果だ。
自販機の商品を入れ替えるのにはかなり手間がかかる。すでに入っているものを取り出し、新しい商品を入れる。見本となるモックアップを取り換え、売価をハンディターミナルで変更。さらに実際に正しい金額で買えるかどうかを、お金を入れて確認する「コインチェック」もある。設定した売価そのものが間違っていないかを確認してもらうため、設定後の自販機の写真を撮り上長に送信する。そのような何重ものチェックを経て、ようやく入れ替えが完了するのだ。
AIの指示のもと複数商品を入れ替えたものの、上がった売り上げが、例えば1日500円程度であれば、その手間に見合わない。
また、システムは自販機ごとに導入コストがかかるため、もともと売り上げのあまり多くないエリアに入れても費用対効果が悪い。そのようなわけで、システム導入に適したエリアを判断し、絞る必要があったのだ。
検討のうえ選定したのは、必ずしも売り上げが大きい自販機だけではない。都心ほど売り上げが立っていない自販機でも、HIVERY Enhanceが有効だとして導入しているエリアもある。
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