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楽天グループ、2423億円増資に潜む「見過ごせない問題点」磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(1/3 ページ)

楽天グループと日本郵政グループが3月12日、資本業務提携に合意したと発表した。だが、この提携、手放しに評価してよいのかどうか。2423億円増資に潜む「見過ごせない問題点」を指摘する。

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 楽天グループと日本郵政グループが3月12日、資本業務提携に合意したと発表した。

 日本郵政の増田寛也社長は「楽天グループさまは、私どもにとりまして最高のパートナーであります」と喜びの表情で語り、楽天の三木谷浩史社長も「日本郵政、日本郵便さんとタッグを組める親戚関係になるのは、歴史的な1ページになるのではないか」と提携の意義を語った。メディアの多くも前向きな評価をし、発表翌日には楽天の株価は急騰した。

 だが、この提携、手放しに評価してよいのかどうか。


日本郵政の増田寛也社長(左)と楽天の三木谷浩史社長(会見より)

日本郵政が1500億円を出資 楽天の大株主に

 提携に伴って、楽天は3月29日払い込みで第三者割当増資を行い、2423億円を調達する。そのうち1500億円を日本郵政が出資、その他に、中国のネット大手、騰訊控股(テンセント)グループが657億円、米ウォルマートが166億円、三木谷社長の資産管理会社三木谷興産が100億円を拠出。日本郵政が楽天の発行済み株式の8.32%、テンセントが3.65%を持つ大株主となる。


第三者割り当ての募集要領(楽天のプレスリリースより)

 まず問題なのは、日本郵政の出資だ。

 日本郵政は楽天への出資で、楽天の持つIT技術などを物流事業に生かすことができると説明。郵便局で楽天モバイルの販売などを行うという報道も出ている。三木谷社長は会見で増資で得る資金の使い道について、「モバイルだけでなく、物流やAI(人工知能)にも投資をしていきたい」と話していた。だが、増資のために楽天が出した資料にはそうは書かれていない。

 資金使途として、楽天モバイルの4G(第4世代移動通信システム)基地局整備に1840億円、5G(第5世代移動通信システム)基地局整備に310億円、4Gと5G共通の設備に250億円を投資するとしているのだ。合計すると2400億円。増資で調達する金額から手数料を除いたほぼ全額が、楽天モバイルの設備に投資されることになっているのだ。日本郵政との共同事業に投じるわけではないのである。日本郵政にとっては、そのこと自体も問題だが、これは置いておくことにしよう。


楽天モバイルの4G基地局整備に1840億円、5G基地局整備に310億円、4Gと5G共通の設備に250億円を投資するとしている(楽天のプレスリリースより)

 今回の増資の狙いは、明らかに楽天の携帯電話事業の資金繰りである。決算書から見える楽天の携帯事業の資金繰りは厳しい。2月12日に発表した2020年12月期決算は、当期利益が1141億円の赤字と、前年の318億円の赤字から大幅に悪化した。営業活動によるキャッシュフローは1兆円を超え、一見潤沢なように見えるが、これは楽天銀行や楽天証券など金融事業による資金流入があるためである。


楽天・フィンテック各社のバランスシート概要 (2020年12月末、以下:楽天の決算説明会の資料より)

 楽天が決算時に公表したスライド資料の「キャッシュ・フローの状況(2020年1月-12月)」にある非金融事業の「現金及び現金同等物の増減額」は966億円のマイナスだ。さらに、携帯電話事業のエリアを全国に広げるために基地局整備の投資資金が出ていっており、投資キャッシュフローは3279億円のマイナスになっている。


「キャッシュ・フローの状況(2020年1月-12月)」
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