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「楽天モバイル社員によるSB技術情報の不正持ち出し」から学ぶ、営業秘密の要件・問われる責任・未然防止措置弁護士が解説(2/3 ページ)

2021年1月12日、ソフトバンク株式会社の技術情報を不正に持ち出したとして、楽天モバイル株式会社の従業員が不正競争防止法違反の容疑で逮捕されました。対象従業員、楽天モバイルそれぞれについてどのような責任が問われ、処罰される可能性が考えられるのでしょうか。

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【ケース】

営業秘密を私物のハードディスクに複製しただけで、第三者に開示しておらず、自己の個人事業のためにも使用していない場合


 民事上の不正競争行為の構成要件と刑事上の営業秘密侵害罪の構成要件とのもっとも大きな違いは、「図利加害目的」の要否です。例えば、「営業秘密記録媒体等不法領得罪」についての不正競争防止法21条1項3号によれば「営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者」と構成要件が規定されており、このなかの「不正の利益を得る目的」(図利目的)、「営業秘密保有者に損害を加える目的」(加害目的)という2つの部分をあわせたものを「図利加害目的」と呼んでいます。

 上記【ケース】のような事実関係のもとでこの「図利加害目的」が認められるのか、という形でこの要件が争われます。この点につき、勤務先の自動車の商品企画に関する情報を勤務先から貸与されていたパソコンを介し自己所有のハードディスクに転送させファイルの複製を作成した被告人の行為について「図利加害目的」が認められるかが争われた事案において、最高裁は、「勤務先の営業秘密である…データファイルを私物のハードディスクに複製しているところ、当該複製は勤務先の業務遂行の目的によるものではなく、その他の正当な目的の存在をうかがわせる事情もないなどの本件事実関係によれば、当該複製が被告人自身又は転職先その他の勤務先以外の第三者のために退職後に利用することを目的としたものであったことは合理的に推認できるから、…法21条1項3号にいう『不正の利益を得る目的』があったといえる」と判示しました(日産自動車事件(最高裁平成30年12月3日判決・裁判所Webサイト))。

 ソフトバンクのプレスリリースによれば、本件では、転職先の業務用パソコンに営業秘密が保管されていたとありますが、このような場合はもちろんのこと、仮に、対象者の個人利用目的のパソコンに営業秘密が保管されていたにすぎないような場合でも、「図利加害目的」が認められ得るという点に注意が必要です

 「営業秘密記録媒体等不法領得罪」を含む営業秘密侵害罪については、10年以下の懲役もしくは2,000万円以下の罰金に処せられ、またはこれらが併科されます。2015年の法改正により、国内犯より重い処罰をする海外重課も導入されています(不正競争防止法21条3項)。

──ソフトバンクによるプレスリリースでは、対象となる情報が「営業秘密」に該当する旨が言及されている一方、楽天モバイルによる公表では「営業情報」との表現が用いられています。不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するかどうかはどのように判断されるのでしょうか。

ポイント

  • 不正競争防止法上の「営業秘密」として認められるためには、「秘密管理性」「情報の有用性」「非公知性」という3つの条件を満たさなければなりません。
  • なかでも、争点となりやすいのが「秘密管理性」の要件ですが、この要件を厳格に解釈するか、それとも緩やかに解釈するかについては一種の “トレンド” があり、昨今、この要件は緩やかに解釈される傾向にあります。

 民事上の責任を問う場合でも刑事上の責任を問う場合でも、共通して、対象となる情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当することが必要です。「営業秘密」とは「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいい(不正競争防止法2条6項)、「秘密管理性」「情報の有用性」「非公知性」という3つの条件を満たさなければなりません。なかでも争点となりやすいのは、「秘密管理性」の要件です

 「秘密管理性」の判断要素として、(1)情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)、(2)情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(認識可能性)の2つが重要であると考えられています。これらを満たすために、どのような具体的な情報管理措置が必要となるかについては、経済産業省が公表している「営業秘密管理指針」(平成15年1月30日、最終改訂平成31年1月23日)にその説明を委ねたいと思いますが、ここで知っておいていただきたいのは、この要件を厳格に解するかそうでないかについては一種の “トレンド” があるという点です

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