「緊急事態宣言下に通勤する人」を叩いても、テレワークが普及しない根本的な理由:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
緊急事態宣言が発令されたにもかかわらず、通勤列車を見ると、たくさんのビジネスパーソンが乗車している。テレワークを実施している企業が増えているはずなのに、なぜ会社で働く人がたくさんいるのか。コロナに対して危機感が乏しいわけでもなく、慣れているわけでもなく……。
起こるべくして起こった
こういう諸外国と異なる独特の産業構造・政治構造なので、コロナ医療も諸外国と異なって独特になる。どう独特なのかというと、地域の医療資源を「コロナ医療」へそこまで集中させていない点だ。
わずか2割程度の大きな病院や公立病院などにコロナ患者が集中して、そこで働く勤務医たちがボロボロになっても、飲食店などがバタバタ潰れても、「小さな民間病院」が担っている「地域医療」はビタッと平時の体制が守られている。
日本医師会の中川俊男会長は「コロナ患者をみる医療機関と通常の医療機関が役割分担をした結果」(日本医師会 1月6日会見)だとおっしゃっているが、自殺者も出るほど国民の生活がメチャクチャになっているにもかかわらず、この「役割分担」を見直さず、政府や自治体から「あと少しの辛抱だ」「最近たるんでいるぞ、こんなことじゃ医療危機だ」と怒られているのが、今の日本国民の状況だ。
テレワークが普及しないのも、生産性が低いのも、そしていつまでたっても医療崩壊の危機が叫ばれているのも、政治家やマスコミはやたらと「国民の意識が低い」という方向に持っていくが、実は「産業構造」を踏まえれば、起こるべくして起こっただけなのだ。
明確なゴールを示されることなく、訳の分からない根性論を押し付けられたままでは、心を壊す人が続出する。今、この国で最も「自粛」すべきことは、外出でも通勤でもなく、「根拠のない精神論」を押し付けることではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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