リモートワーク率95%達成維持! 「全国フルリモート採用」導入の中小がたどり着いた新しい働き方とは?:約1年かけたトライアル・アンド・エラーの末に(3/3 ページ)
2021年4月にSaaS事業などを手掛けるショーケース(東京都港区)が、地方で働くITエンジニアをフルリモートで採用するという「全国フルリモート採用」をスタートした。フルリモートを地方採用にまで拡大できた背景には、リモートワーク率を95%に高めるまでにたどった暗中模索の1年間があったという。コーポレート本部人事部で部長を務める山田剛氏に話を聞いた。
自宅=オフィスへ惜しまず投資をする
「例えば、ステータスの透明性を上げるという目的で、Zoomを一日中つなぎっぱなしにしている部門があります。マイクもビデオも一日ON状態ということです。当然、監視と捉えられるんじゃないかという懸念はありました。だけど、上司から一方的に『明日からマイクもカメラもONね』と命令するのではなく、課題があれば共有して解決法を考え、試してみるというプロセスがあります。その結果を受けてまた考える、その繰り返しです。リモートワークは、管理職もメンバーもスタートラインが同じでした。だからこそ、全員で試行錯誤を重ねるという空気感は今後も大切にしていきたいですね」
こういったチャレンジは、事業部や部門内だけではなく、全社的に見られるという。ショーケースでは、一人当たり月2万円の「リモートワーク支援金」を支給しているが、Slackの全社チャンネルなどを通して使い道を共有し合い、「快適なリモート環境をどう構築すべきか全社員で検討し、レベルアップを図っていった」と山田氏は話す。ちなみに、企業のリモート手当は1000〜5000円が多く、ショーケースの月2万円はかなり高額だ。
「ただ住むだけではなく、働く場所に変わった自宅に対して会社が投資することは自然」との考えから、制度に踏み切ったという。リモート率95%維持の秘訣は、柔軟な考え方や手厚い精度に加えて、社員ファーストな姿勢が大きく影響している。
「出社を前提としない働き方」を求めて
21年3月には、東京都が主催する「TOKYOテレワークアワード」において、大賞を受賞。これは、都がリモートワークを普及する上で先進的・モデル的施策を行う企業を表彰するという取り組みだ。約1年にわたるチャレンジを経て、整えてきた労働環境のサポートや業務の速やかなオンライン化を評価された結果であった。この受賞は、同時期に企画が持ち上がっていた全国フルリモート採用に踏み切るに当たって、ショーケースに大きな自信を与えた。
現在、全国フルリモート採用の対象となるのはエンジニア職のみとなっているが、今後拡大する予定はあるのだろうか? 山田氏は「当面は人材が不足しているエンジニアにフォーカスして採用活動をする予定ですが、ほかの部門にも応用できるかという議論は進めています」と話す。
「職種での公平不公平を検討するよりは、社員一人一人のライフイベントに寄り添った対応をしていきたいと考えています。最近では、家庭の事情で首都圏を離れることになった在籍社員の、地方フルリモート勤務が承認されました。社員全員が良い選択をできる、その環境づくりのためにも“出社を前提としない働き方”については、今後もトライアル・アンド・エラーを繰り返しながら考えていきたいです」
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