外国人にも人気の「缶コーヒー」が、なぜ2017年から低迷しているのか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
缶コーヒーの売り上げが低迷している。「カフェが増えたから」「コンビニコーヒーが伸びているから」といった理由を想像したかもしれないが、筆者の窪田氏は違う見方をしている。どういうことかというと……。
缶コーヒー低迷とタバコの関係
では、「何か」とは何か。まず考えられるのが「ペットボトルコーヒー」だ。実は17年4月に日本の缶コーヒー市場を震撼(しんかん)させる出来事があった。今、巷(ちまた)にあふれるペットボトルコーヒーの先駆け的存在であるサントリーの「クラフトボス」が発売されたのだ。
発売からわずか9カ月で1000万ケースというこのヒット商品は、すぐに他メーカーも追いかけて瞬く間に新カテゴリーが創出されたのだ。つまり、「ペットボトルコーヒー」の増加によって、従来の缶コーヒーのユーザーがこちらへシフトしてしまったというワケだ。
と聞くと、「なーんだ、容器が缶からペットボトルに変わったことで、消費が落ち込んだように見えたのか」と思われたかもしれないが、そうとも言えない。
このペットボトルコーヒーがヒットするのと同じ時期に、「缶コーヒー」と切っても切れない相棒のような関係の「嗜好(しこう)品」に壊滅的なダメージがもたらされる。
もうお分かりだろう、その嗜好品とは「タバコ」だ。
18年6月に東京都が受動喫煙防止条例を制定、そして政府も同年7月に改正健康増進法を成立させた。これによって、飲食店だけではなくオフィスなどでも一気に「屋内原則禁煙」が一気に進んだのである。また、これらの規制ができる前の17年後半ごろから、メディアでも繰り返し繰り返し、受動喫煙の害が叫ばれていた。
つまり、17年から強まる「嫌煙ムード」と18年の禁煙規制の成立によって、社会の中での「働き盛り世代」ともいうべき30〜40代が一気にタバコを吸うことをやめていくのである。
厚生労働省「国民健康・栄養調査」の男性の成人喫煙率によれば、18年は29%。前年の29.4%とほとんど変わっていない。前々年の30.2%からやや減少している程度だ。しかし、「30〜39歳」「40〜49歳」だけはガクンと減っている。16年には42%、41.1%だったものが18年には37.4%、37%とこれまでの減少具合とは比べ物にならないほどの減りっぷりなのだ。
男性の30〜40代といえば、仕事的にも中心的な役割を果たすようになるので、会社として受動喫煙防止対策を進める中で率先して従わないといけない。また、家族も持ち始める時期でもあるので、タバコの害が連日叫ばれる中で、妊娠中の妻や幼い子どもへの害を心配して禁煙に踏み切った人も多かったのではないか。
ちなみに、この10年くらい喫煙者はずっと肩身の狭い思いをしてきたが、実はそこにダメ押しをしたのが、今大逆風が吹いている東京五輪だ。
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