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社員の4割が外国籍 宇宙ベンチャー・アクセルスペースの「強い組織の作り方」コンピテンシー評価を導入

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 超小型人工衛星を開発し、地球観測プラットフォームのAxelGlobeを構築している宇宙ベンチャーのアクセルスペースは、3月に4機の超小型衛星の打ち上げに成功した。5月には親会社のアクセルスペースホールディングスが、シリーズCラウンドで約25.8億円を調達し、資金調達総額は70億円を超えた。AxelGlobeと衛星の開発・製造は、ともに新たなフェーズを迎えている。

 事業を拡大するこのタイミングで、アクセルスペースが強化しているのが組織力だ。全社員のうち約4割を外国籍の社員が占める。異なる文化を持つ多様な社員が存在し、ハードとソフトそれぞれを担当するエンジニアの考え方も違う中で、チームとして同じ方向に進むためのマネジメントに力を注ぐ。アクセルスペースのHRやチームづくりの取り組みを、CEOの中村友哉氏と、3月に最高人事責任者のCHROに就任した青本裕樹氏に聞いた。


中村友哉(なかむら・ゆうや)アクセルスペース代表取締役最高経営責任者(CEO)。1979年、三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中、3機の超小型衛星の開発に携わった。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。会社設立後、株式会社ウェザーニューズやJAXA(宇宙航空研究開発機構)等から衛星開発を受託、合計9機の超小型衛星開発・打ち上げ・運用に成功。また、2015年の大型資金調達後には自社衛星群による次世代地球観測網AxelGlobeの構築を進める

青本裕樹(あおもと・ひろき)アクセルスペース取締役財務最高責任者(CFO)兼人事最高責任者(CHRO)。2008年3月に青山学院大学法学部を卒業。同年4月に株式会社みずほフィナンシャルグループに入社。その後、コンサルや投資業を営むスタートアップを経て、直近は株式会社ココナラにて執行役員CFOとして管理部門を管掌。2020年2月に産業の変革を目指して株式会社アクセルスペースに入社

AxelGlobeは23年に衛星10機体制に

 アクセルスペースは超小型人工衛星の技術を活用してビジネスを展開するベンチャー企業だ。創業は2008年で、当初は衛星の開発や製造が事業の中心だったが、21年に入って2つの要因によって大きく事業を拡大させる時期を迎えている。

 1つは、15年から取り組んできた地球観測プラットフォームのAxelGlobeが本格的に稼働したことだ。AxelGlobeは、地球の周回軌道上に投入した約100キロの超小型衛星GRUSを複数協調させる衛星コンステレーションによって、地球を観測するサービス。これまでは1機で観測をしてきたが、21年3月22日に新たに4機の打ち上げに成功した。5機体制になったことで地球の同じ場所を2〜3日に1回撮影できるようになっている。


AxelGlobeを構成する衛星GRUS-1B(3月打上げ)が軌道上から撮影した最初の画像

 もう1つは、5月に発表したシリーズCラウンドでの25.8億円の調達。この調達によって、AxelGlobeを構成する超小型衛星をさらに5機製造する費用と、打ち上げと運用も含めた費用が確保できた。中村氏は「調達によりプラットフォームの完成が近づいた」と説明する。

 「今回調達できたことで早急に衛星の製造を進めて、23年には5機を追加してAxelGlobeを10機体制にします。10機体制になると1日1回世界をモニタリングできます。作物の生育状況を把握する精密農業のようなよく知られた用途のほか、港湾のコンテナや船舶の増減を日々モニタリングすることによる経済動向の把握、森林での違法伐採の早期発見や河川・海洋汚染の検出といった環境監視など、多様なニーズに応えられるようになります。

 10機によるプラットフォームの完成は、社内ではAxelGlobe1.0と位置付けています。1.0の完成後も顧客の声に耳を傾け、衛星の機数や、宇宙から得られるデータの種類を増やして、2.0に進化させていきます。世界で最も選ばれる地球観測プラットフォームの実現を目指しています」

 アクセルスペースではAxelGlobeの事業と同時に、超小型衛星の量産にも取り組む。3月に成功した4機の打ち上げは、日本の企業で初めて複数の同型衛星を一度に打ち上げる試みだったと同時に、初めての量産でもあった。この経験を生かして、衛星の中に搭載するコンポーネントを共通化し、画像撮影など運用に必要な動作をコマンドとして搭載することで、21年から本格的な量産を始める。

 「これまでは顧客が作りたい衛星をゼロから設計していましたが、その方法では製造に時間もコストもかかります。コンポーネントを共通化し、ソフトウェアを標準化することで開発期間を大幅に短くして、コストも大幅に下げることができると考えています。24年頃には年間に50機ほど生産できる体制ができるように、現在計画を立てているところです」


アクセルスペースの超小型衛星「GRUS」

事業が拡大するタイミングで組織力の強化に注力

 事業が拡大する中で、課題になるのが人材のマネジメントだ。アクセルスペースの社員は毎年20人程度採用していて、現在80人を超えている。今後も毎年10人から20人ほど採用していく予定だ。ただ、ハードとしての衛星製造と、ソフトとしてのAxelGlobeの両面で事業を展開しているため、人材のマネジメントは簡単ではないと中村氏は明かす。

 「衛星のエンジニアは失敗できないので、石橋をたたいて渡ります。一方で、画像解析やAI(人工知能)などを扱うソフトウェアのエンジニアは、バグがあってもどんどん出して、修正しながら進化させていくスタイルです。どちらが良くて、どちらが悪いということではありませんが、両者はものづくりに対する考え方が全く違うので、マネジメントは大変です。そういう意味で、この会社を経営していくにはHRが非常に重要だと考えて、3月に人事最高責任者のCHROの役職を新たに置きました」

 CHROに就任したのが、20年2月に財務最高責任者のCFOとして入社した青本氏。青本氏は新卒でみずほフィナンシャルグループに入社し、コンサル会社などを経て、ベンチャーのココナラでCFOと人事を担当した。アクセルスペース入社後はシリーズCの調達の業務を進めるとともに、人事政策を策定している。

 アクセルスペースの人材マネジメントが特殊な点は、ハードとソフトで異なるタイプのエンジニアがいることに加えて、外国籍の社員の割合が高いことだ。青本氏は社員の構成を次のように説明する。

 「衛星関係のエンジニアが約50人で、ソフトウェアのエンジニアが約15人くらいいます。あとは衛星の画像を販売する営業チームが10人弱、管理部門が10人弱という構成です。外国籍の社員の比率は少しずつ増えていて、現在は約4割を占めています。特にエンジニアは外国籍の社員の割合が高いですね。

 外国籍の社員は出身エリアが本当にまちまちで、多国籍の状態です。比較的ヨーロッパの国が多いですが、アジアも結構います。弊社の記事やWebサイトを見て、直接応募してくる方が多いです」

「行動」で評価するコンピテンシー評価

 多国籍の人材をチームとしてまとめるために、青本氏が中心となって20年から取り組んでいるのが評価制度の見直しだ。

 「いろいろな文化の方が集まり、それぞれバックグラウンドも違うので、なかなか透明性のある評価制度を作るのは難しいです。どうすればみんなが気持ちよく働けるのかを意識した結果、成果に対して評価するのではなく、行動に対して評価するコンピテンシー評価といわれるものを新たに導入しました。

 具体的には、5つの大きな行動指針を17項目の行動に落とし込んで、それぞれが1年間どのように活動し、達成したのかを半期ごとに評価します。コンピテンシー評価を導入している企業は、成果に対する評価とセットにしているケースも多いようですが、私たちはコンピテンシー評価だけに振り切っています」

 コンピテンシー評価は、一般的には高い業績を残している社員の行動特性をもとに、行動する項目や基準を設定して人事評価をするものだ。導入した背景には、成果に対する評価では難しい面があるからだという。

 「宇宙ビジネスという新しいことをやっているので、細かい成果に対しての評価は提示しにくいところがあります。状況によって評価が変わるケースもあり、そうなると軸がぶれてきます。軸がぶれないために重要なのは、会社のミッションやビジョンに立ち返ることです。

 ミッションやビジョンに沿った具体的な行動をとれば自ずと成果も出てきますし、国籍やバックグラウンドもあまり関係ありません。まだまだこれからですが、少しずつ行動変化も見えてきて、チームによっては機能してきていると思います」

社員を結束するニュースレターとミーティング

 コンピテンシー評価の導入以外にも、社内の各チームが結束するための取り組みを実施している。その1つが、中村氏が毎週社員に向けて発信しているニュースレターだ。アクセルスペースが次に目指しているものを、明確に社員に伝えているという。

 「最近ではAxelGlobe1.0の完成に向けた道筋が見えたことや、これから衛星の量産に本格的に取り組み、世界からどんどん衛星開発の案件を受注するといった目標を具体的に伝えています。今はポジティブなメッセージを出しやすいタイミングです。

 大事なのは、いいニュースが出せないときでも、社員のモチベーションを維持することですね。一番つらいのは、衛星を載せたロケットの打ち上げが延期された場合です。次の打ち上げまで何カ月も待たされることでビジネスができなくなるので、エンジニアも営業もつらくなり、『この会社は大丈夫だろうか』といった不安が広がります。

 そういう時こそ、『経営陣が何とかするから大丈夫だ』という力強いメッセージを出します。実際に08年の創業以来、いろいろな難局をくぐり抜けてきて、会社の足腰は強くなっています。経営陣が強い意志と覚悟を見せることが、社員の気持ちを前向きにすることにつながると経験上感じています」

 もう1つは、毎週1回開いている全社ミーティングで、1人の社員が誰かに「ありがとう」と感謝したいことを伝えることだ。感謝を受けた人は、また次の週に誰かに感謝の思いを伝える。つまり、appreciation(感謝)のリレーだ。始めたのは中村氏の提案だった。

 「仕事をしていると、どうしても自分の周りしか見えなくなってしまいます。でも、いろいろな仕事があって、多様な人材が集まっている環境をうまく生かすには、他のチームや社員がどんな仕事をしているのかを可視化して、興味を持ってもらうことが必要だと考えました。

 そこで、ある人が社内の別の人に感謝している内容を共有することで、感謝された人の一面を全員が知ることができます。リレー方式で広げることによって、全員が社内全体に目を配ることができるようになります。

 もちろん、感謝された人は、『ありがとう』といわれるのはうれしいですよね。自分の仕事に意義を感じることができます。このリレーによって、社内で横が意識できているのではないでしょうか」

オープンでフラットなコミュニケーション

 多国籍の社員が集まっている点では、社員同士のコミュニケーションも重要になる。日ごろのコミュニケーションは日本語と英語の両方を使っていると青本氏は説明する。

 「英語が中心のチームや、日本語が中心のチームもありますが、全社的な会議では英語と日本語の両方で話しています。英語が苦手な人、日本語が苦手な人であっても、全社員が共通して認識できるようにするためです」

 外国籍の社員に対しては、日常生活で日本語が必要になる場面が多いため、日本語教育を無料で受けられる制度も用意している。コロナ禍以前は会社に日本語教師を招いていたが、現在はオンラインで受講してもらっているという。

 また青本氏は、コミュニケーションをオープンにし、フラットにすることも重視していると話す。

 「いろいろな情報をオープンにすることは大事だと思っています。この情報は出していいのかなと悩んだ時には、基本的にオープンにします。その上で、誰もが参加できる場で、チャットやディスカッションをします」

 中村氏も、できるだけコミュニケーションを取りやすい環境を整えることで、社員それぞれの考え方を生かしていきたいと考えている。

 「社員はそれぞれ異なる考え方を持っているので、コミュニケーションをする時にはどうしてもぶつかりがちになります。だからこそ、ミッションやビジョンなどの原点があって、目指しているところは同じだと認識できていれば、お互いの考えを生かしてソリューションを見つける努力ができます。取り組んでいることの意義を常日ごろから意識できる仕組みを作ることで、社内の各チームが同じ方向に進めるようにしていきたいですね」

 アクセルスペースは今後事業が拡大していく中で、全てのチームで今以上に人材が必要になる。中村氏と青本氏は「もっとアクセルスペースを知ってもらって、一緒に働いてくれる人を増やしていきたい」と話している。


提供:アトラシアン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2021年6月21日

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