ランクル14年振りの刷新 「ランクルじゃなきゃダメなんだ」世界で評価される理由:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
ランクルというクルマは、それを使う地域と使わない地域でとんでもなく評価が違うクルマだ。「池田なぁ、村もオアシスもない巨大な沙漠をクルマで命懸けの横断をするとして、レンジローバーとランドクルーザーがあったらどっちを選ぶ?」。そう聞かれてハタと思ったのだ。
壊れないかの確認ではなく壊すこと
ランクルとハイラックスの話だが、タンドラやタコマだって同じだ。トヨタはこれらのクルマを壊して壊して徹底的にいじめ抜き、鍛え上げる作業を行っている。壊れないことを確かめるのではなく、どこまでやったら壊れるかを確かめるのだ。
一例を挙げれば5大陸走破プロジェクトがある。14年のオーストラリアを皮切りに、翌15年に北米、16年にラテンアメリカ、17年に欧州、18年にアフリカ、19〜20年にアジアという全てのエリアを走り抜く予定だった。現在新型コロナの影響で中国、東アジア、日本を残したところで中断しているが、いったいこれで何をしようというのか?
豊田章男社長自らが唱える「もっといいクルマ」。そのもっといいクルマを作るための手段が「道がクルマを鍛える」というやり方だ。身の回りの限られた環境から「道」を想像しても、おそらくその想像は現実に追いつけない。
急峻(きゅうしゅん)な山岳路で、目もくらむ谷や落石の危機に苛(さいな)まれる道ならば想像しやすいだろう。ひどいぬかるみで車輪がはまりこむような道もおそらくは想像しやすいだろうが、道の険しさはそういう分かりやすいものだけではない。
例えばオーストラリアの無人地帯にある、ただただ真っ直ぐな道路の恐ろしさ。われわれが想像する整備状態とはまったく異なるひび割れだらけの、あるいは時折穴の空いた舗装路を、景色の変化が乏しい中で時速130キロ制限で走る。人の感覚が麻痺(まひ)して覚醒レベルが下がってきたところで、突如路面の穴に襲われる。かと思えば隙を突くように分かりにくいほんの僅(わず)かなカーブがやってくる。われわれの知らない日常がそこにはある。
日本の首都高だってそうだ。ほんの20年前まで、高温多湿かつヒートアイランドで発熱する首都高の渋滞の中で、1メートルも動かずにエアコンを使い続けることに欧州系輸入車は全く対応できなかった。オーバーヒートでエンジンが壊れたり、エアコンが全く効かずに蒸し風呂になったりすることが普通にあった。彼らの知る世界では走ってさえいれば真夏であろうと窓を開ければ涼しい風が入ってくる。そういう常識でクルマが設計されていた。
そういう個性的というか、全く性質の違う過酷さを持った道が世界にはたくさんある。その現実を知らないで、想像だけではクルマは作れない。知らなかった過酷さにぶつけて「壊してみて」初めて本当の意味での限界が分かる。トヨタの5大陸チャレンジはそういう種別の違う過酷な道で、クルマと人を鍛える。人はエンジニアとは限らない。トヨタで働くさまざまな人が世界の道の本当の過酷さを感じ、腹落ちするためにこのチャレンジに参加する。腹落ちすれば、そういう地域で使う人のリスクが自分事になるのだ。知らないことを想像するのとは受け止め方そのものが変わってくる。
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