新型アクア ヤリスじゃダメなのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)
7月19日、トヨタ自動車は新型アクアを発売した。先代(初代)のアクアを振り返ってみれば、これはなかなかに酷(ひど)いものだった。そして、今回のアクアにはもうひとつ大きなトピックがある。それがバイポーラ型バッテリーの採用だ。
これをもっと薄くするにはどうすればいいか? それはもう、1枚の金属箔の裏と表にそれぞれ正極剤と負極剤を塗ってしまうのが早い。金属箔を両面利用するわけだ。仮に70層重ねるなら、金属箔70枚分薄くできる。さらに従来の一対の正極と負極の場合、セルは電気的に独立しているので、図のように隣のセルとは導線でつながなくてはならないが、裏表で使えば金属箔自体が隣のセルとの導線になってくれるのでこれも省ける。しかも配線のゲージに依存しないので大電流に対応可能だ。
つまりセルあたりの厚みが減り、配線取り付けのための耳もいらない。だから1セルのサイズがコンパクトになり、結果的に単位体積あたりのセル数を増やせる。アクアにおいて、リチウムイオン電池搭載モデルよりニッケル水素電池搭載モデルの方が高いのは、セル数が増えているからだ。ちなみにこのバイポーラ型の構成は、ニッケル水素専用ではなく、リチウムイオンでも採用可能であり、そうなればリチウムイオン電池の性能向上も可能になるはずだ。
ただし、セルが増えれば価格は上がる。タダでさえ高いリチウムイオンだと、価格的にさらに苦しくなるだろう。コバルトの入手に困難が予想される中で、ひとまずハイブリッド用の小容量バッテリーはニッケル水素バイポーラで材料逼迫(ひっぱく)を回避しておくというやり方は、今後EV用のリチウムイオン用原材料を温存するために役に立つはずだ。
さて、この大電流の効果はドライバビリティにも多大な貢献をしており、停止からのトルク感は明らかに厚みを増した。ハイブリッドといいつつも、駆動感覚はEVに近づいたと言える。
ということで、アクアはいろいろと面白い。筆者の好みからいうと絶賛するわけではないが、好みが合う人にはかなりお勧めできる。ではお前はどうなんだと聞かれたら、アクアが出てきたことによって、むしろGRヤリスのFFモデル、RSが一段と魅力的に見えるようになった。まあそんな人は希だと思うが。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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