取引先の請求書を電子化させる交渉テクニック:自社だけでなく(4/4 ページ)
自社でいくらペーパーレス化を進めても、取引先が対応していなければ、それに合わせて紙での対応を余儀なくされます。取引先の請求書を電子化させる交渉方法について考えます。
実務上の留意点とは
振込業務の改善も必要です。冒頭の経理業務のテレワーク対応に関する調査によると、「取引先への振込み」「その他入出金確認」もテレワークの阻害要因として高い比率が示されているためです。
振込み、入出金の確認をオンラインで行うためには、金融機関のインターネットバンキングの利用は必須といえます。紙の通帳の利用や、振込みを銀行の窓口やATMで行っていては、テレワーク対応は困難です。
インターネットバンキングについては、セキュリティ上の観点から忌避感を持つ会社もあると耳にします。利用料のコスト負担を嫌う向きもあるようです。
しかし、インターネットバンキングには、大きなメリットがあります。近年では、インターネットバンキングから取得したデータを元に帳簿付けを行いやすい環境が整えられています。これはクラウド会計を中心に発展した新しい仕組みですが、クラウド会計を利用せずとも同じ仕組みを利用できるように整えている会計ソフトも多く見られます。インターネットバンキングの利用料のコストは、外出の時間コストとも比較するべきでしょう。
残念なことですが、「業務負担の軽減」を掲げると、その意図を曲解して「仕事が嫌い、努力が嫌い」と上司に思われるのではないか、と恐れるケースがあるようです。政府主導の「働き方改革」により、そのような声は薄まっているようにも思われますが、それでも「合理性」だけでは人は説得できません。雑誌の解説記事はあくまで画一的な解説にとどまらざるを得ませんので、自社のタイプに合わせた方向性を模索していく必要があるでしょう。
また、請求業務におけるペーパーレス化で大きな変化が見込まれるのが、共通仕様の電子インボイスの導入です。電子インボイスは電子データの請求書を意味する用語で、広い考え方ではPDF形式のような請求書も含まれます。しかし、ここで注目したいのは「共通仕様」の電子インボイスです。
共通仕様の電子インボイスの策定を目指す電子インボイス推進協議会は、会計ソフト等を提供するソフトウェア会社が多数加入しており、各種ソフトウェアにおいて電子インボイスへの幅広い対応が期待されます。電子インボイス推進協議会では、2022年秋において共通仕様の電子インボイスを利用できる状態を目指すと発表しています。
この共通仕様の電子インボイスは、同じ請求情報をもとにやりとりできるため、多くのソフトにおいて幅広い対応が見込まれます。つまり、これまでは同一のシステムでしか請求情報を交換できなかったものが、今後は多くのソフト同士で請求情報をやりとりできるようになり、劇的な変化が期待されるわけです。
対事業者取引を中心としている会社の場合、他社から電子化された請求が可能であるか問合せを受ける機会も多くなると思われます。最新情報をキャッチアップするように努めましょう。
業務改善については関係各所の理解を得るために多方面の交渉が必要となることから、腰も重くなりがちです。テレワークを実現しづらい場合は、なぜできないのかを検討することが、業務改善にもつながる結果を生むはずです。
著者:栗原 洋介(くりはら・ようすけ)
栗原洋介税理士事務所/税理士
東京都北区赤羽の税理士。クラウド会計とITツールを活用したい事業主への指導に取り組み、事業主の不安を解消する細やかな目配りに定評がある。
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