定年後も「支えられる者」でなく「支える者」になる時代へ――再雇用、今さら聞けない「保険料や年金の扱い」はどうなるのか?(3/3 ページ)
今の日本の社会では、どの企業も60歳前に「定年」を設定することはできない法律になっている。しかも、少子高齢化が加速している現状では、人手不足を解消する必要があること、そして公的年金の支給開始年齢が原則65歳に引き上げられたことを踏まえると、国は60歳以上の高年齢者を労働市場に留める施策を講じざるを得ない。その一つが「定年再雇用」である。再雇用で、保険料や年金はどういう扱いになるのか?
次に年金についてだが、国民年金の加入期間は原則として60歳までであるので、定年退職者は国民年金の加入対象者にならない。加入期間が40年未満の場合には任意加入もできるが、毎月1万6610円(21年度)の保険料(税)を支払った分を将来の年金で取り戻そうと思えば、相当な健康管理が必要だ。ここは「支えられる者」になるのも致し方ない。
フリーランスを選択すれば年金の保険料を支払う必要はなくなるが、就労分の保険料を納めないのだから、当然に将来の年金受給額を増やすことができないというデメリットも生じる。また、厚生年金保険に加入していれば病気やケガで重い障害になったとしても障害厚生年金をもらう権利が生じるが、それもない。
定年再雇用後の労働条件はどうなるか?
定年再雇用の場合、定年後の労働条件等の決定は企業に裁量がある。実態として、定年前と同じ仕事であっても賃金を下げているケースも筆者は多々見てきた。
ところが、21年4月に「パートタイム・有期雇用労働法」が改正施行され、その第8条に定める均衡待遇により、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情を考慮して不合理な待遇差が禁止された。
定年再雇用者のほとんどは有期雇用者として再雇用されているため、当然にこの法律が適用され、企業は待遇差に応じた処遇(賃金等の労働条件や福利厚生)をすることが求められているが、コロナ禍の影響もあってか、対応はあまり進んでいないように思われる。
一方で、定年再雇用者の労働実態を見ると、「いくら頑張っても評価されない」「評価の仕組みがなく、賃金も上がらない」といった状況でモチベーションや生産性の低下が少なからず見られるようである。
この先も企業が高年齢者を戦力として考えるならば、働きがい・賃金上昇への期待を生じさせるような変革や、福利厚生を充実させることによる労働者の満足度の充足を図ることは重要だ。それにより、モチベーションや生産性を向上させ、社会の担い手としての「支える者」を維持できるようにすることを、今後は検討していくべきではないだろうか。
著者:三戸礼子(みと・あやこ)
特定社会保険労務士。2007年1月社会保険労務士登録、15年5月特定社会保険労務士付記。00年1月に大槻経営労務管理事務所に入所以来、主に大規模事業所の担当者として給与計算や社会保険実務などの業務に従事。社会保険労務士の3号業務である相談業務に従事し、複数の事業所を担当する。前職が大学の文部技官であったこともあり、実務セミナー講師や執筆活動にも注力。学生への指導や教授の学会資料の作成サポートなどで培った経験を生かし、「わかりやすい説明・伝わる内容」をモットーに活動。専門分野は「ハラスメント」。趣味は、読書と散歩。「晴歩雨読」の生活に憧れている。
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