ブリヂストン「中国企業への事業売却」を叩くムードが、日本の衰退につながったワケ:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
ブリヂストンが大規模なリストラを明らかにした。中国企業に「防振ゴム事業」を売却することに対し、批判の声が高まっているが、こうしたムードが強まるとどういったことが起きるのか。筆者の窪田氏は「日本を衰退させるという皮肉な現実がある」と指摘する。どういう意味かというと……。
技術と人材の海外流出
海外のライバルたちは、「親」にさっさと見切りをつけて、世界の広いマーケットを目を向けた。半導体ビジネスは巨額投資と意思決定スピードが勝敗を決めるので、グローバルメーカーは「分業化」という未来を見据えて、注ぎ込むべきときにドカンと大金を投入した。その代表が「受託製造」で世界一となった台湾のTSMCだ。こういうライバルの台頭で、日の丸半導体は徐々に稼げなくなっていく。収益が上がらないということは、研究開発や設備投資もできないので、どんどん差が開いていくという悪循環に陥る。
こうなれば次に起きるのは「技術と人材の海外流出」だ。企業の技術者は無形文化財でも人間国宝でもないので、稼げなければどんどん冷遇されていく。給料も下がるし、部下もロクに与えられない。研究費も削られる。そういう「不遇の技術者」を競合がいい条件をちらつかせて引き抜くのは、何も韓国や中国だけに限った話ではなく、世界のどこでも当たり前に行われている。
つまり、かつて「世界一」と言われた日の丸半導体がここまで惨敗してしまったのは、中国や韓国うんぬんの前に、ライバルが当たり前のようにやっていた「事業再編」という意思決定を10年以上も先送りしてきた日本型組織にこそ原因があることは明白なのだ。
さて、それを踏まえて「世界一のタイヤメーカー」であるブリヂストンに話を戻そう。20年12月期の最終損益が233億円の赤字となって、69年ぶりの赤字転落が大きな話題になったが、本業のタイヤ事業がそこまで悪いわけではない。EVシフトだなんだと大きな動きがあるが、タイヤがなくなるわけではないので市場も拡大しており、技術力も高く評価されており、まだまだ堅調だ。
にもかかわらず、なぜ「事業再編」に踏み切ったのかというと「稼ぐ力」にかげりが出ているからだ。30年前、まだ「世界一」の座にいた日の丸半導体と同じ問題に直面しているのだ。
ブリヂストンのタイヤは確かに世界市場を席巻しているが、それぞれの国にはそれぞれのタイヤメーカーがあり、中国の新興メーカーなども台頭してきた。ブリヂストン自身が認めているが「タイヤを世界各地で大量に作って売る。そんなモデルが成り立たなくなっていた」(日経ビジネス 21年2月24日)のである。
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