ブリヂストン「中国企業への事業売却」を叩くムードが、日本の衰退につながったワケ:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
ブリヂストンが大規模なリストラを明らかにした。中国企業に「防振ゴム事業」を売却することに対し、批判の声が高まっているが、こうしたムードが強まるとどういったことが起きるのか。筆者の窪田氏は「日本を衰退させるという皮肉な現実がある」と指摘する。どういう意味かというと……。
「みんなが助かる道」はない
このような悲しい歴史を真摯(しんし)に学べば、まだ「世界一」をキープしているブリヂストンがこれからどんな戦い方をすべきか、というのは明らかだろう。
それは一言で言えば、「みんなが助かる道」というムシのいい楽観論を捨て去った戦い方である。
今、ブリヂストンでは、20年からを「第三の創業」(ブリヂストン3.0)と位置付けて、「稼ぐ力の再構築」を掲げている。将来への成長投資は23年までに7000億円を投入。事業・生産拠点の再編や成長事業などへの投資と、M&A(合併・買収)など外部との連携にそれぞれ3500億円ずつを当てるという。
当然、それをやるにはスリム化は必要だ。今年2月には、タイヤ工場など世界で約160ある生産拠点を23年までに19年比で約4割減らすと発表。今回の中国企業への売却はその一環である。
もちろん、これらの拠点で実際に働いている従業員の立場になれば、なぜ自分たちの部署だけが外に追い出されるのだ、と理不尽に感じるだろう。現場を犠牲にしているという批判もごもっともだ。
また、防振ゴム事業はただの多角化経営ではなく、ブリヂストンの伝統と技術力を象徴する事業だ。同社第1号タイヤが誕生した7年後の1937年(昭和12年)、海軍航空機の緩衝ゴム(防振ゴム)を試作したことからスタートしたこの事業は戦後着々と技術を磨いて、80年代の日系自動車メーカーの海外生産本格化とともに、北米を皮切りに世界に活躍の場を移していく。そんな創業時からのDNAを受け継いでいる事業なのだから、これを売却しないで済むような方法を考えることこそが、経営者の役割だという主張も当然あるだろう。
ただ、残念ながら今のブリヂストンに、「みんなが助かる道」という選択はない。防振ゴムやホースなどはEVシフトでもなくならないが、部品点数が減るのでどうしてもかつてほどの成長はしない。海外メーカーの技術も競争力も上がってきている。今回、防振ゴム事業を売却する中国企業、安徽中鼎控股集団などはその代表だ。
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