廃業決めた老舗和菓子店を救済 社長が語った「マクドナルドを見習え」の真意:「匠紀の国屋」として始動へ(2/2 ページ)
看板商品「相国最中(しょうこくもなか)」などで知られ、5月16日に廃業を発表した和菓子店「紀の国屋」。26日、スイーツのインターネット販売を手がけるアイ・スイーツ(東京都文京区)は、紀の国屋の元従業員20人を雇用し、「匠紀の国屋」として新たに事業を始めると発表した。廃業の発表からわずか10日で新ブランドでの再始動が決定――という急転直下の事態に驚きの声が上がる。この間に一体、何があったのか。アイ・スイーツの社長に話を聞いた。
「和菓子はマクドナルドのような努力をしてこなかった」
1948年に創業した老舗和菓子店「紀の国屋」の突然の廃業発表は、多くの人を驚かせると同時に、背景に「若者の和菓子離れ」があるなどとして、盛んに報じられている。
一方で、稲垣さんは別の見方をする。
「私は和菓子離れが進んでいるとは思っていなくて、(顧客に届けるための)努力していたかというところが問題かなと思っています」
「和菓子って、もっと先端的なものだったんですよね。例えば、歴代の徳川将軍には常に新しい和菓子を差し出して将軍が食べていたといいます。このように和菓子は革新的なものでした。それがいつの間にか、保守的になってしまったのではないでしょうか」
「例えば、マクドナルドは子供たちにハッピーセットのおもちゃをプレゼントしています。こうしてハンバーガーの味を舌で覚えさせて、大人になってもマクドナルドを食べてもらうようなファンづくりをやっている。和菓子はそういう努力をしていなかったのかなと思います」
稲垣さんは「匠紀の国屋」を通じて、いつしか保守的になってしまった和菓子を先駆的なものによみがえらせたいという。
「例えば学童保育のような場で、子どもたちに和菓子作りを楽しんで体験してもらうような取り組みが必要ではないかと思っています」
匠紀の国屋では、AI(人工知能)を駆使した商品開発を進めるほか、店頭で和菓子職人を前面に出して菓子作りの工程を見てもらうといった取り組みも予定しているという。
「今までは、ラーメン店の店長さんなどが腕組みをして前面に出ているところがよくあるが、和菓子店はどちらかというと、線の細い職人が地道にやっているイメージがあったと思います。これはこれで安心感があるかもしれませんが、匠の技という部分では、もっと刺激的であったり、攻撃的であったりする部分があると思うので、そういう部分を醸し出したいと思っています」
名称に込めた思い 「匠大塚」から着想も
従来の店舗名の頭に「匠」をつけた意味――。稲垣さんは「和菓子職人の気質という思いだけはつないでいきたい。そういう思いから、匠とつけさせてもらいました」と強調する。
一方で、「紀の国屋」から「匠紀の国屋」への名称変更には、家具専門店「大塚家具」から「匠大塚」が派生した一件を連想させる。
――新名称に「匠大塚」を意識した部分はあるのですか
「ええあります。匠大塚さんも親子喧嘩がクローズアップされた部分がありますが、もともと持っていたビジネスモデルが、いま(本店がある)埼玉県春日部市で残っています。これはやっぱり、ビジネスモデルがしっかりと根付いている証だと思っています」
「われわれも、そういう部分では紀の国屋のビジネスモデルがちゃんと残るんだという証にしたい。紀の国屋のビジネスや商品が悪かったわけではないし、商品も社員も素晴らしいものだと信じているので、彼らの思いをつないでいきたいと思っています」
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