1キロのプリンで分かる「業務スーパー」本当の強さ 比類なき成長続けられる理由とは:数々のヒット商品(2/4 ページ)
業務スーパーを展開している神戸物産が急成長している。強さの秘密はどこにあるのか。筆者は「商品改革」が特に優れていると指摘する。
なぜここまで強いのか
業務スーパーの強みを以下の5つに整理しました。
(1):小売業というよりも製造業という方が的確なほどの独自商品開発力
(2):フランチャイズ加盟店に裁量権を持たせることによる個店対応力
(3):商品力を軸に据えたうえでのデジタル活用
(4):デフレ下に支持される商品品質と低価格の両立
(5):壮大なる社会問題へチャレンジする創業者の信念
(1)(3)(4)はそれぞれが相関しているテーマです。
DXに出遅れる企業は負け組になるというような風潮がありますが、ここではあえてそれに異を唱えたいと思います。顧客が求めているのはデジタルではなく商品です。商品力なくして有効なDXなど成しえないと捉えることが必要です。次の図で示す通り、優先的要素を的確に捉えなくてはいけません。業務スーパーはこの中でも特に「商品変革」に圧倒的強みを保持しています。
業務スーパーを利用したことがある人は十分に感じていると思いますが、商品の独自性と利便性が高い支持を得ています。これまで話題になった商品を例に紹介しましょう。
業務スーパーのヒット商品であるカスタードプリンは、1キロ270円前後とのことです(2021年8月時点)。カップ1個ではなく1キロです。包装は牛乳パックと同じ形態です。牛乳パックから1キロの大きなプリンが出てくる姿は圧巻です。しかも、「安かろう悪かろう」では全くないのです。
業務スーパーの自社グループ工場で製造しているので、低コスト高品質を実現しています。しかも、品質安全検査も自社で徹底しています。独自のおいしさがあり、安く、安全。業務スーパーという名前から飲食店向けのスーパーと誤解する人もいるかもしれませんが、食べ盛りの子どもがいるファミリー層に高い支持を得ています。
安く提供できる要因の一つとして製造工程が挙げられます。同一工程、同一の包装素材を活用。同じ生産ラインで水ようかんやコーヒーゼリー、カスタードプリンをつくっているのです。1商品のためだけに製造機械を購入し、生産ラインをつくるとどうなるでしょうか。投資資金を回収するために、販売価格に転嫁せざるを得なくなります。
価格以上の価値ある独自商品を提供する――これが小売り業の根幹です。身を削るような値引きをするのではなく、生産工程や物流、包装などを工夫することで価格を安く提供する。これこそが真の安さです。小売り業では値引き、セールが当たり前という印象がありますが、伸びている企業は値引きをしているのではなく定価自体が安いのです。安い定価でも自社も利益を取れる工夫をしているからです。値引きをする企業は得てして厳しい憂き目をみてきたのが小売り業の歴史です。
その他にも、業務スーパーにはリッチチーズケーキや冷凍カット野菜など多数の人気商品が誕生しています。おいしい商品と経済的な価格で地域の顧客に喜んでもらう。この小売り業としての軸が強く備わっているのが業務スーパーです。
こうした商品力を保持したうえで、デジタル化にも着手しています。天下茶屋駅前店(大阪市)では、ソフトバンクと提携しAIなどを活用した次世代型店舗を展開しています。そこで得たデータを軸に、さらにきめ細かく精緻な顧客とのコミュニケーションを実現し、効果的な商品開発につなげていくことでしょう。
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