SDGsを発明した人は本当に頭がいい、皮肉な理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
ここ数年、「SDGs」(持続可能な開発目標)を耳にすることが多くなった。17の目標はどれも必要なものかもしれないが、実践することによって日本はどのようなメリットを手にすることができるのだろうか。
本当に頭がいい
日本の防衛産業は往時に比べてかなり衰退していて、自衛隊も米国から高額な兵器を買わされている。そのため、政府としても防衛費の増額と合わせて、防衛産業のテコ入れをしようと検討している。
「防衛産業、基盤強化に本腰 相次ぐ撤退に危機感」(時事通信 5月5日)でも紹介されているが、国内企業は利益率の低さから続々と防衛産業から撤退しているのだ。
ならば、そのうちこちらも「中国の脅威に立ち向かうためにはESG投資に含めるべきだ」とか言い出しても不思議ではない。ロシアを迎え撃つ軍事産業が良くて、中国の脅威に立ち向かう防衛産業が「ESG投資」に当てはまらない理由はない。ここまでルールが都合よく解釈されるようになれば、SDGsの政治利用もさらに露骨になっていくだろう。
さまざまな目標が17も並べられているように、SDGsの強みは、サステナブル感さえ出せば、いろいろなものがくっつけられるところだ。「覇権主義をやめよう」とか「武力での現状変更をやめよう」なんて目標が知らない間につけ加えられても正直それほど違和感がない。
ということは、欧州がSDGsをエネルギー安全保障に利用しているのと同じように、日本もこの使い勝手のいいフワッとした話を、安全保障に利用していく可能性もあるのだ。例えば、「中国の海洋進出を防ぐことが真のSDGsだ」とか「憲法改正こそが日本のSDGsだ」なんて話も出てくるかもしれない。いや、冗談じゃなくて。
生き馬の目を抜く国際社会で、情報戦に活用される「SDGs」に今後も注目したい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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