ユニクロの「フリース1000円値上げ」は正しい、なるほどの理由:スピン経済の歩き方(5/7 ページ)
ユニクロがネット上で叩かれている。「秋冬モノで1000円前後の値上げを予定している」と発表したところ、「高すぎる!」などと厳しい声が相次いでいるのだ。同社の値上げは“間違って”いるのだろうか。いや、実はそんなことはなく……。
「ガス抜き」が欠かせない
このイメージ戦略は何を示しているのか。もちろん、1つには、木梨さんやCharaさんのようにオシャレなシニアもジーユーに来てくださいね、というターゲット層拡大の意味があるのだろう。ただ、筆者は、ユニクロの「高くてダサい戦略」の批判をかわす、リスクをヘッジする目的もあるのではないかと考えている。
冒頭でも申し上げたように、日本人は「安さ」で売っていた人の裏切りを決して許さないネチっこさがある。ユニクロが人口減少社会対応で「高級化」を進めたら、間違いなく一部の消費者は陰湿な攻撃を仕掛けるだろう。
具体的にはネットやSNSで「こないだ店をのぞいたらガラガラでした」「2990円もするフリースなのに、買って3日で破れました」など「高級化」を断念するようなネガキャンを展開するのだ。
では、これを避けるためにはどうすべきかというと、「ガス抜き」だ。ジーユーという低価格帯を、安さに執着し続けるシニア客のためにも解放する。つまり、木梨さんとCharaさんという50〜60代のイメージキャラクター起用は、「ユニクロを高く感じるシニアのお客さまはぜひこちらにどうぞ」という意味もあるのではないか。
いろいろ勝手なことを言わせていただいたが、筆者はユニクロの1000円値上げ、ジーユーの年齢層引き上げは人口減少社会に対応した正しい戦略だと評価をしている。
人口減少という事実からひたすら目を背けて、人口が増えていた時代に確立されたビジネスモデルに固執して、じわじわと疲弊しているような企業が多い中で、さすが日本を代表する製造小売だと関心している。
日本人は人口減少を子どもが減るくらいにしか思っていないが、本来は厚労省ではなく、財務省か経産省が管轄しなくてはいけない「経済問題」だ。
例えば、日本では学校で子どもたちに「高度経済成長期に日本は技術力を磨いたことで、世界第2位の経済大国になりました」と教えるが、これは「古事記」みたいな神話と同じで、真っ赤なうそだ。
技術や教育がある水準まで達した先進国のGDPはそのまま人口に比例する。人口1億2000万人の日本は、米国に次いで先進国で2位の人口大国なので、GDPも2位になる。事実、ドイツのGDPを抜いたときに日本人は「あの技術大国のドイツのGDPを抜いた! ってことは、日本の技術力がドイツを追い抜かしたってことだろ」と大騒ぎしたが、実はこのとき、日本の人口がドイツの人口を抜いていたのだ。
つまり、われわれが「日本経済スゴイ」と思っているものの多くは、実は1億2000万人という人口によって下駄を履かせてもらっていたのだ。
こういう事実を真摯(しんし)に受け止めれば、人口が急速に減っていく中で、ビジネスモデルの大きな転換をしていくのは当然である。ユニクロの値上げはその当たり前のことをしているのだ。
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