駅員への暴力増加…「ネコパンチ」に見立て防止呼びかけ 鉄道各社、カスハラ対策に苦慮:カッとしても暴力はダメニャ!(1/2 ページ)
JRや私鉄など全国90の鉄道事業者は、増加する駅係員への暴力行為を防ぐため、2匹のネコを使ったPRポスターを共同で作成し、駅構内や列車内で掲載を始めた。暴力行為を「ネコパンチ」に見立て、コミカルな表現に仕立てたのはなぜなのか。
「カッとしても暴力はダメニャ!」――。JRや私鉄など全国90の鉄道事業者は、増加する駅係員への暴力行為を防ぐため、2匹のネコを使ったPRポスターを共同で作成し、駅構内や列車内で掲載を始めた。暴力行為を「ネコパンチ」に見立て、コミカルな表現に仕立てたのはなぜなのか。話を聞くと、利用客の悪質クレーム対策に苦慮する現場の姿が見えてきた。
1匹のネコが駅係員の帽子をかぶったネコにパンチを加えている。パンチを受けた方のネコには「おやめくださいニャ」との吹き出し。7月8日から全国の駅や列車内で掲載を始めたポスターは、駅員への暴力行為という深刻な問題を、ネコを使ってユーモラスな啓発ポスターに仕立てている。
「愛らしさで目を引くネコを起用し、駅を利用するお客さまに不快感を与えることなく、広くメッセージを届けることを目指しました」と日本民営鉄道協会の担当者は話す。
増加に転じた駅係員への暴力行為
日本民営鉄道協会やJR各社など全国37の鉄道事業者が7月4日に発表したデータによると、2021年度に発生した駅係員に対する暴力行為は計406件。前年の377件から増加に転じた。コロナ禍に伴う外出自粛要請などがあったが、ワクチン接種も進み、前年より鉄道利用客が増加。これに伴い、暴力件数も増えたとみられる。
加害者の約58%(406件中236件)が飲酒しており、深夜に多く発生する傾向があった。暴力行為の件数自体は過去10年で減少しており、警察官の巡回や警備員の配置、防犯カメラの設置などが進んだことが背景にあると考えられる。
一方、現場からは、暴力行為などの悪質性が近年高まっているとの指摘も出ている。21年に発表された悪質クレームに関する調査結果(交運労協が実施)。鉄道やタクシー、バスなど交通運輸の従事者から約2万件の回答を得たところ、直近2年以内で利用客から迷惑行為を受けた割合は46.6%。迷惑行為が「増えている」と答えた割合は57.1%に上った。
迷惑行為の特徴を業界別に見ると、鉄道では「暴力行為」のほか、「土下座の強要」や「SNS・インターネット上での誹謗・中傷」が多いことも判明した。
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