闇で流れる「ウナギロンダリング」 土用の丑の日に未来はあるか:「土用の丑の日」に憂う(1/6 ページ)
7月23日に、今年も土用の丑の日がやってくる――。改善進まぬ「ウナギロンダリング」の実態や漁業者搾取の「稚ウナギ謎ルール」の現状を解説する。
7月23日に、今年も土用の丑の日がやってくる――。
7月9日付の日本経済新聞によると、今年の国産物の価格は生きたウナギが前年同期比で4割、蒲焼は1割弱高い。水産庁の発表によると、2022年漁期(2021年11月〜22年5月)の稚ウナギ(シラスウナギ)池入れ数量は、前年の18.3トンを11%下回る16.2トンに終わった。
各都府県により異なるものの、稚ウナギの漁期はおおむね前年12月から4月までで、水揚げが例年よりも遅れたことが理由の一つだとされる。稚ウナギの平均価格も前年のキロ当たり132万円から220万円へと大幅に値上がりしている。
ウナギの水揚量の減少は今に始まったことではない。図1からも明らかなように、1963年に232トンを記録していた稚ウナギの採捕量は、2022年には10.3トンにまで落ち込んだ。最盛期のわずか4.4%に落ち込んだ。1961年に3387トンもあった天然ウナギの漁獲量は2021年には63トンにすぎない。スーパーに出回るウナギは、ほぼほぼ全てが養殖もの。その価格も“うなぎのぼり”である。
改善進まぬ「ウナギロンダリング」
現在、日本のウナギ養殖は国内で採捕された稚ウナギだけでは養殖池を埋められない状況で、外国からの輸入に頼っている。かつて最大の輸入先だった台湾が輸出を原則として禁止した07年以降、香港からの輸入が急増、現在に至っている。台湾から香港へといったん密輸されたものが、香港を通じて日本に流入している「ウナギロンダリング」が行われているのである。このことは業界関係者なら誰もが知る事実だ。
国内でも多数の稚ウナギの採捕が「密漁・無報告」のものであることも関係者周知の問題である。例えば22年漁期の国内採捕量は10.3トンと推定されるところ、報告された採捕量は5.3トンにすぎない。約半分の5トンの稚ウナギが密漁・無報告で採捕されたと考えられる。
図2は22年漁期の稚ウナギの国内採捕量、香港以外からの輸入量、国内での無報告採捕量、及び台湾からの密輸由来の疑いが高い香港からの輸入量を示したものだ(なお輸入量は前年7月から今年5月まで)。密輸・密漁・無報告由来のものが半数以上を占めているのが分かる。つまり、スーパーに並んでいる国内産の養殖ウナギの実に半分が、由来が怪しい可能性の高い「灰色のウナギ」ということになる。
関連記事
- 止まらないウナギロンダリング 漁業者搾取の謎ルールに支えられる「黒いウナギ」に未来はあるか
今年もウナギ業界最大のイベント「土用の丑の日」がやってきた――。 - 絶滅危惧のウナギーー横行する“密漁・密輸”がもたらす「希望なき未来」
今年も「土用の丑の日」が7月27日にやってくる――。長年にわたってウナギを初めとした資源管理政策を研究してきた気鋭の研究者が、業界の闇に切り込む3回シリーズの前編。 - 「絶滅危機」のウナギ、真の復活への道とは
明日7月27日に、ウナギ業界最大のイベント「土用の丑の日」を迎える――。お祭り騒ぎの舞台裏を支えるのは、台湾から香港を経由した稚魚の密輸である「ウナギロンダリング」や、暴力団が関与した密漁であることは「公然の秘密」だ。長年にわたってウナギを初めとした資源管理政策を研究してきた気鋭の研究者が、業界の闇に切り込む3回シリーズの最終回。 - “ウナギ密漁”の実態を追う――「まるでルパン三世の逃走劇」
今年も「土用の丑の日」が7月27日にやってくる――。長年にわたってウナギを初めとした資源管理政策を研究してきた気鋭の研究者が、業界の闇に切り込む3回シリーズの中編。 - ウナギ業界の「異常」にイオン、岡山のベンチャーが立ち向かう理由
今年もウナギ業界最大のお祭り「土用の丑の日」がやってきた。だが、そのお祭りを支えるのは、暴力団による密漁、そして香港を経由した「密輸ロンダリング」など、「異常」とも呼べる数々の違法行為だ。遅々として進まない日本政府の取り組みを尻目に、イオンや岡山のベンチャー企業「エーゼロ」は持続可能な養殖に向けて挑戦を始めている――。 - 「奇跡のウナギ缶詰」物語――“日本一の防災”目指し始まった「町おこし」
高知県の黒潮町缶詰製作所で作られている「奇跡のウナギ缶詰」を巡る物語――。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.