闇で流れる「ウナギロンダリング」 土用の丑の日に未来はあるか:「土用の丑の日」に憂う(4/6 ページ)
7月23日に、今年も土用の丑の日がやってくる――。改善進まぬ「ウナギロンダリング」の実態や漁業者搾取の「稚ウナギ謎ルール」の現状を解説する。
非正規に流すほうが儲かる
県内流通規制がある場合、取引価格は養鰻業者に有利なように設定されることが少なくない。高知県の場合、先に述べた「うなぎ稚魚(しらすうなぎ)特別採捕取扱方針」に加えて「高知県うなぎ稚魚(しらすうなぎ)需給要綱」なるルールが存在し、ここで「うなぎ稚魚の買い入れ価格は、県内養鰻業者の決定によるものとする」と定められている(同要領第10条)。
養鰻業者としては稚ウナギの価格は安ければ安いほうが良い。従って市場価格よりもはるかに安いと考えられる買い入れ価格が定められてしまうのだ。「買取価格が安すぎる」との批判に対し、高知県は「令和2(2020)年度の高知県の供給単価は漁期を通して、60万円/kg となっており、同じように統一の単価を持っている宮崎県の単価は 60万円/kg、静岡県は 62 万円/kg であったことから、高知県が突出して安値という状況ではない」と回答している 。
だが、水産庁調べによると同年度の稚ウナギ取引価格は144万円とその倍以上である。取材した高知県のあるウナギ採捕者も「今漁期の指定集荷人に卸す正規価格は1キロ当たり100〜150万円だったが、非正規価格はキロ当たり200万円だ」と語る。
採捕者としてみれば非正規に流すほうが儲(もう)かるため、必然的に無報告の稚ウナギ採捕が増えることになる。ここで無報告の非正規流通を生み出している根本原因は、非正規に流す採捕者のモラルではなく、稚ウナギ流通を県内に限定し、市場原理を歪(ゆが)め稚ウナギ漁業者を搾取する「謎ルール」とも言えよう。
これに関しては水産庁も問題視しており、2021年10月に通達を発出。「都道府県において指定された出荷先への販売価格を設定している場合において、その設定価格が、市場価格に比べて低いときには、そのことが未報告や過少報告を発生させる要因となっていないか再点検し、必要な運用の見直しを行うこと」と都道府県知事に要請している。
しかし先ほどの高知県のある稚ウナギ漁業者も「運用の見直しがされたという実感は全くないし、誰もそのように思っていないであろう」と語っているように、稚ウナギの二重価格は今に至っても解消されていない。
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