企業に上から目線の「カスハラおじさん」が、大量発生しているワケ:スピン経済の歩き方(7/7 ページ)
「お客」という立場を生かして、店のスタッフなどに理不尽な要求をする「カスハラ」が増えているという。さまざまな調査をみると、カスハラの正体は中高年の男性のようで。なぜ、こうした層がむちゃくちゃな要求をするのか。背景に何があるのかというと……。
「うまい負け方」がポイント
このように「パワハラおじさん」「カスハラおじさん」の大量発生は、「規則を守ることは何よりも尊い」ことを人材教育に組み込んできた日本では、起こるべくして起きている現象だ。「個性」や「多様性」を否定する教育システムを変えない限りは、今後も増えていくことはあっても、減っていくことはないだろう。
そこで気になるのは、企業や役所はこれからどうすべきかということだ。前出『バカの災厄』の中で、池田氏は経済人類学者カール・ポランニーの座右の銘「愚かな人にはただ頭を下げよ」こそがバカ対策としては最も安全で合理的だと述べている。
「自分は絶対に正しい」と信じ込んでいるような人間に対して客観的な事実やデータをつきつけて説得しようとしても、「そんなのはデタラメだ」「論点が違う」など逆ギレして話にならない。仮にその場で説得できたとしても、逆恨みされて嫌がらせや暴力に訴えてくる可能性もあるし、SNSでの誹謗中傷につながる恐れもある。というわけで、あまり関わり合いにならず、頭を下げてその場をやり過ごすのが最も現実的だというわけだ。
かつてモンスタークレーマーの対応には、「どうしましょう?」「お辛いですね」などと感情に寄り添ってやり過ごせ、なんてことを言う専門家もいた。相手の要求がエスカレートする恐れもあるので、100%非がない限りは明確な謝罪は避けつつ、怒りを鎮めるよう「聞き役」に徹しろ、なんてことを言う専門家もいる。
しかし、「一億総ハラスメント社会」となりつつある今、そこでがんばるのはあまり得策ではない。暴言やネチネチと説教をしてくる「カスハラおじさん」に対しては頭を下げて、「だろ? やっぱりオレ様は正しかった、わかりゃいいんだよ」と満足をさせて、さっさとお引き取りを願ったほうが、業務の邪魔にもならないし、対応する人のメンタルヘルスや身の安全も守られる。
そう考えていくと、これからの企業や役所のモンスタークレーマー対応は、「相手がどれだけ気分良く勝てるか」というところがポイントになってくるのではないか。じっくり腰を据えて相手の言い分に耳を傾けるような長期戦型対応を続けていたら、「カスハラおじさん」の数が増えて現場のメンタルは崩壊してしまう。
暴言や説教を一気に吐き出させて、ストレス発散させて、サクッと帰らせる。現場の精神的負担を軽減するためにも、これからのカスハラ対応は「短期決戦型の上手なやられ方」が求められるのかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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