運慶からスカジャンまで 横須賀美術館が仕掛けた「市内との相互誘客戦略」:運慶展+特別展「特集:井上文太 Inspirations」(1/5 ページ)
「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」が約2カ月間で、5万人の来場者を集めた横須賀美術館。好調の背景には、「美術館を街づくりに生かしていく」というコンセプトを打ち出す横須賀市による「誘客戦略」があった。画狂人・井上文太さんとの取り組みなどから、その背景をひもとく。
都心から電車とバスを乗り継ぐこと約1時間半。神奈川県横須賀市にある横須賀美術館では、日本の彫刻史で、最も有名な作家といわれる運慶の作品から、ファッションアイテムの「スカジャン」まで地元の文化や魅力を最大限に生かしたユニークな展覧会が企画されている。
中でも記録的な観覧者数となったのが、開館15周年を記念した800年遠忌記念特別展「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」(運慶展)だ。7月6日から9月4日までの約2カ月間で、5万人の観覧者を集めた。1000人以上が来場する日もあり、2007年4月の開館以来、史上3番目の観覧者数を記録。多くの人が詰めかけた様子は、「まるで東京ディズニーランドのようだった」(市の関係者)という。
同美術館の年間の観覧者数は11万人以上で、例年でいえば、この2カ月間で半数近くが訪れた計算になる。好調の背景には、「美術館を街づくりに生かしていく」というコンセプトを打ち出す横須賀市による「誘客戦略」があった。
海辺の絶景に位置する美術館 街づくりに生かす
「横須賀美術館への来場をきっかけとして、市街にも来てもらう相互誘客を図っています」
こう話すのは、横須賀市 文化スポーツ観光部の倉林孝英部長だ。美術館は一般的に、自治体の教育委員会が管轄することが多く、同市もこの4月までは、教育委員会が横須賀美術館を管轄していた。だが、美術館をこれまで以上に街づくりにも生かし、多くの人に知ってもらうための戦略の一環として、観光やスポーツ、商業を所管する文化スポーツ観光部に移管した。倉林部長は「美術館をいろいろな形で街づくりに生かしていきたい」と意気込む。
横須賀美術館は目の前に東京湾が広がっている。三浦半島でも屈指の絶景だ。館内には東京・南青山に本店を構える「リストランテ アクアパッツァ」の日高良実シェフ(高は「はしごだか」)が総料理長を務めるイタリアンレストラン「横須賀アクアマーレ」が併設されていた。おしゃれなミュージアムショップもある。美術館から市街までは、車で20分ほどだ。
そんな同美術館では話題性のある企画が続く。その代表が運慶展だ。運慶は、12世紀末から13世紀初頭にかけて活躍した仏師で、奈良の興福寺や東大寺での造仏が広く知られている。だがNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で描かれたように、鎌倉幕府という新政権と密接に結び付き、北条氏からの信頼を背景に、東国でも活躍の場を得ていた。
運慶展では、横須賀市内に残る運慶と運慶工房作とみられる仏像を中心に、前後する時期の仏像や書跡など、約50点の文化財を展示した。三浦半島の歴史と文化に新たな光を当てている。同美術館 美術館運営課の岡本剛彦課長に開催の経緯を聞いた。
「市内の浄楽寺に運慶の手掛けた像5躯(く)が安置されていることから、企画することになりました。さまざまなご協力のもと2躯をお借りすることができたのです。
全国に30躯前後あるといわれる運慶の作品のうち、5躯が横須賀市内にあるのですが、そのことはあまり知られていません。そのお像は全て国指定の重要文化財ですから、移動や公開するためには文化庁の許可を得ることが必要でした。学芸員が尽力してくれて何とか実現しましたが、数年越しの挑戦でした」
企画から開催まで何年もかかった運慶展は開催後、見事に花開いた。大河ドラマの影響もあり、5万人の来場者数を記録したのだ。
「関係者の協力のもと、大河ドラマが放送するタイミングに合わせることができました。三浦半島と三浦一族に世間が注目する時期に運慶展を開けたことは、成功だったと思います」(岡本課長)
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