「賃上げの予定なし」7割の衝撃 中小企業で働く人は「安月給」のままなのか:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
城南信用金庫と東京新聞が中小企業を対象に、調査を実施した。それによると、7割以上が「賃上げの予定なし」と回答した。中小企業で働く人は、このまま「低賃金」が続くのか。
「現状維持型企業」が消えない
まともな資本主義の国では、このような「現状維持型企業」は、政府が進める最低賃金の引き上げに耐えられず、自然と市場から消えていく。そこで働いている労働者も一時的には失業するが、再就職先は間違いなく前の職場よりも高賃金になるので生活水準は向上する。だから、消費も冷え込まない。しかし、日本の場合、現状維持型企業が消えることなく、何十年も存続している。事実、日本は欧米などと比べて異常なほど中小企業の廃業率が少ない。
これはなぜかというと半世紀前から「中小企業が元気だと日本経済は元気!」という精神論が唱えられ始めて、国をあげて中小企業の倒産を防ぐような政策が進められてきたからだ。「最低賃金を引き上げない」というのも、その一つである。
そこに加えて、自民党が現状維持型企業を保護していることもある。国家にバラマキや優遇措置を求める現状維持型企業は、自民党にとって「大票田」だ。そう簡単に消えてもらっては困る。
いずれにせよ、このような政治の思惑もあって日本は「成長しない中小企業」大国になった。これは経営者と役員報酬をもらう家族にとっては最高の国だが、日本人の7割にとっては絶望なことこの上ない。
「成長しない中小企業」に賃上げなどできるわけがないからだ。
ザボっているとかではなく、現実的に無理なのだ。もともと自分と家族が食べていくための現状維持型ビジネスをやってきたなので、賃上げする余裕もない。また、労働者を安い賃金で働かせることが「企業努力」という考えなので、今さら急に「成長して賃上げを」と言われても何をしたらいいか分からないのだ。
だからこそ、「最低賃金の引き上げ」を進めていく必要がある。
賃金をボトムアップしていけば、「従業員が普通に暮らしてく給料すら払えない中小企業経営者」に「引退」を決断させて、入れ替わるように新しい経営者が増えていく。その中には当然、より高い賃金を払える経営者もいるはずだ。
これは「弱者切り捨て」うんぬんという話ではなく、どの国でも当たり前に行われている「産業の新陳代謝」なのだ。
そんな最後の切り札ともいうべき「最低賃金の引き上げ」が日本では恐ろしいほど話題に上らない。マスコミもユニクロの年収がどうしたとか大騒ぎだ。いよいよ本格的にこの国はヤバいことになってしまうのではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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