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少子化でも堅調、ランドセル市場 「ラン活」浸透で購入時期の前倒し、平均価格の上昇ニッセイ基礎研究所

少子化が進行しているが、ランドセルの平均価格は上昇し、ランドセル市場は堅調に拡大している。ランドセルの購入時期は早まり、最近は5月と8月がピークに。「ラン活」の浸透でこれらの動向は助長されているようだ。

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ニッセイ基礎研究所

本記事は、ニッセイ基礎研究所「少子化でも堅調、ランドセル市場−「ラン活」浸透で購入時期の前倒し、平均価格の上昇」(2023年3月7日掲載、生活研究部 上席研究員 久我尚子)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。


1――ランドセル市場の動向〜小学1年生人口は減少するも平均価格が上昇、2022年をピークに縮小か?

 少子化が進行しているにもかかわらず、ランドセル市場は堅調に拡大している(図1)。2012年から2022年にかけて、小学1年生の人口は106.1万人から99.8万人(▲6.3万人、▲5.9%)へと減少し、ランドセルを背負う子どもの数は減っているが、ランドセル工業会「ランドセル購入に関する調査」によると、購入されるランドセルの平均価格が3.74万円から5.64万円(+1.90万円、+50.9%)へと実に1.5倍へと上昇していることで、ランドセル市場規模は397億円から563億円(+166億円、+41.9%)へと拡大している。

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図1 ランドセル市場規模(推計)および小学1年生人口、購入されたランドセル平均価格(右軸)

 一方で、今後とも小学1年生人口は減少していく見通しであり、ランドセル平均価格の上昇傾向は鈍化していることから、仮に5年後までにランドセル平均価格が6万円まで上昇していくとし、未就学児の出生数を用いて今後の市場規模を推計したところ、2022年頃をピークに縮小に転じ、2027年には500億円を下回る。この背景には、2022年度までと比べて2023年度の小学1年生人口の減少幅が大きいことがある。

 2022年度の小学1年生、すなわち2015年度生まれ(2015年4〜12月と2016年1〜3月生まれ)の出生数は100.33万人(前年の2014年度生まれ100.95万人より▲0.62万人、▲0.61%)だが、2023年度の小学1年生(2016年度生まれ)では96.63万人(2015年度生まれより▲3.70万人、▲3.68%)へと比較的大きく減少している。

 なお、過去10年間の小学1年生にあたる出生数の減少状況が最も大きかったのは2010年度生まれ(106.7万人で2009年度107.0万人より▲1.93万人、▲1.81%)だが、来年度の小学1年生である2016年度生まれでは減少幅も減少率も2010年度生まれの2倍程度を示す。

2――ランドセル市場拡大の背景〜祖父母の購入で価格上昇と購入時期の前倒し、「ラン活」が助長

 少子化が進行する中でランドセル平均価格が上昇している背景には、マーケティング領域で「6ポケット」(両親と両祖父母の合計6つの経済ポケット)といわれるように、1人の子どもに充てられる金額が増えていることがあげられる。

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図2 二人以上世帯の通学用かばんの月別平均支出額

 先の調査によると、2022年度の小学1年生の購入したランドセルの支払者は祖父母が55.0%を占める。一方で祖父母が支払う割合は、2019年は61.3%、2020年は61.2%と6割を超えていたが、2021年は53.2%へと低下しており、新型コロナ禍で帰省が自粛された影響などが見て取れる。

 また、近年ランドセルの購入時期が早まっている。総務省「家計調査」によると、二人以上世帯の通学用かばん(ランドセルを含む)の支出額は2005〜2007年平均では入学直前の冬(1・2月)にピークがあったが、2015〜2017年平均では前年の夏(7・8月)に、2021・2022年平均(※1)では5月と8月の2つのピークへと変化している。つまり、5月の大型連休や夏休みの帰省時に祖父母と一緒にランドセルを選ぶ家庭が増えたということなのだろう。

 なお、先の調査では、2022年度の小学1年生のランドセル購入の検討開始時期は2021年4月(入学1年前)と前年の12月にピークがあり、購入する数カ月前から検討が開始されている様子がうかがえる。

 このような中で、近年、子育て世帯では「ラン活」という言葉が浸透しつつある。これは「就活」や「保活」などと同様に、ランドセル購入に向けた一連の活動を略したもので、人気メーカーなどのランドセルを購入するためには早期から獲得に向けた活動(展示会に足を運ぶ、早期に予約をするなど)が必要であることを意味する。

 なお、「ラン活」という言葉は、記事検索によれば2016年頃から新聞記事などで登場するようになっており、図1を見ると、ランドセルの平均価格が5万円に、市場規模は500億円に近づき、ランドセル市場の成長が目立ってきた頃だ。ランドセル市場は「ラン活」という言葉が登場する前から拡大傾向にあったが、この言葉が登場したことで、ランドセル獲得競争が一層過熱し、平均価格の上昇や購入時期の前倒しを助長させたともみられる。

(※1)2020年は新型コロナ禍で緊急事態宣言が発出され、特に4・5月は物流などに多大な影響が生じたため除いている。

3――変貌するランドセルの色〜男児は黒が6割、女児は多様化、薄紫が人気、サブスクサービスも登場

 ランドセルの色も変容している。かつてはランドセルの色は男児は黒、女児は赤が一般的であったが、最近では特に女児で多様化している。

 2022年度の小学1年生の男児のランドセルは圧倒的に黒(58.4%)が多いものの、減少傾向にあり、紺(17.6%)や青(9.6%)、緑(4.9%)、こげ茶(1.9%)などの他の色が約4割を占めるようになっている(図3)。

 一方、女児では圧倒的に選好される色はなく、最多は紫/薄紫(24.1%)であるものの、きん差で桃(21.0%)が続き、以下、赤(17.0%)、水色(15.7%)、うす茶(6.6%)と続く。なお、女児では2019年や2020年では赤が最多で約4分の1を占めていたが、2021年に紫/薄紫が並び、足元で逆転しており、女児のランドセルは赤という常識は過去のものとなっているようだ。

 ところで、大半の児童は小学校の6年間、同じランドセルを使用しているが、最近ではランドセルのサブスクリプションサービスが登場しており(※2)、ランドセル購入時期が前倒しされる中で入学時には好みが変わってしまうケースや小学生生活の途中で切り替えたいという需要にも柔軟に対応できる。

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図3 購入されたランドセルの色

(※2)「ランドセルも「サブスク」 好み変わっても、定額で交換」(朝日新聞夕刊7面、2023/2/25)

4――小学生の親世代の経済状況の厳しさ〜非正規雇用率の上昇、正規雇用者の賃金カーブ平坦化

 2節でランドセル購入の支払者は過半数が祖父母であると述べたが、その背景には小学生の親世代の経済状況が厳しくなっている影響もあるだろう。

 雇用者に占める非正規雇用の割合を見ると、女性では以前から高いものの、「女性の活躍」推進の流れから2014年頃から低下傾向にある(図4)。一方、男性では2000年代に入ってから全体的に上昇したままであり、若い年代ほど非正規雇用者率が高い傾向がある。小学1年生の保護者のボリュームゾーンとみられる35〜44歳の男性の非正規雇用率は1990年では3.3%だったが、2022年に9.3%となり、今の親世代では祖父母世代と比べて約3倍に増えている。

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図4 雇用者に占める非正規雇用者の割合

 また、正規雇用者であっても10年ほど前と比べて30〜40歳代で賃金カーブが平坦化し、40歳前後の10年間で大学卒の男性では約▲730万円、女性では約▲820万円も収入が減っている。子育てや住居の購入などで出費のかさむ時期に賃金が増えにくくなれば、ランドセルの購入主体だけでなく、さまざまな消費行動への影響、ひいては子どもをもう一人望むのかどうかなど多方面に影響を及ぼす。

 足元では物価高が進行する中で、政府はエネルギー価格や食料価格の抑制対策や賃上げ支援、低所得世帯への給付といった物価高対策を実施しており、負担感の大きな子育て世帯に向けた給付等を行う自治体もある。生活困窮世帯を中心に即時的な家計支援策の実行が求められる一方で、中長期的には安心して働き続けられる就業環境の整備を進めることは究極の家計支援策といえる。

 また、将来を担う世代の経済基盤の安定化が図られることで、ランドセル市場の縮小の後ろ倒しも期待できるのかもしれない。

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図5 大学卒の正規雇用者の賃金カーブの変化

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