ラピダスで「敗者復活戦」 日本の半導体は再興するのか(2/2 ページ)
日本の半導体が凋落してからおよそ30年、官民が2022年に立ち上げたラピダスに、業界の栄枯盛衰を目の当たりにした技術者が集結した。彼らはムーアの法則に陰りが出てきた今こそ復興のラストチャンスと見て「敗者復活戦」に挑む。
競争力を失った日本が2027年までに線幅2ナノを超える超微細な最先端半導体を量産する目標を実現できるかどうか、専門家の多くは懐疑的にみている。2ナノはTSMCもまだ実現できておらず、日本メーカーは最も微細なもので40ナノと大きく出遅れている。
英調査会社オムディアの杉山和弘コンサルティングディレクターは、これまで最先端半導体を量産化した経験がないことから「量産化のハードルは相当高い」と指摘する。TSMCは、「極端紫外線(EUV)を使う7ナノで約100万枚のウエハーを使ってテストをしたと言われており、回路の原板であるフォトマスクの設計と合わせてノウハウを有している」と、別の半導体アナリストは解説する。
コストの問題も無視できない。半導体業界の関係者は、ラピダスの少量多品種生産について「量を生産して歩留まりを上げることができないため、コストをどこまで低減できるのか」といぶかしがる。
日本が巻き返すラストチャンス
しかし、鈴木さんと同じタイミングで入社した米丸直人さんは、半導体の先端化競争の土俵が変わろうとしている今こそ日本が巻き返す好機、しかもラストチャンスとみている。
31歳の米丸さんは、日本の半導体が低迷期に入ってから業界に飛び込んだ。デジタル機器を使うのが当たり前になったが「正直半導体業界に人気があった記憶はない」という。入社した会社は日本が強い半導体素材メーカーで、順調なキャリアを重ねたが、最先端の研究がしたいとラピダスの門を叩いた。
ラピダスでは半導体ウエハーに微細な回路を形成するフォトリソグラフィーの開発に携わる。世界でどこも成功していない2ナノの量産化に対して、これまでとトランジスタの構造が大きく変わる点を挙げ、「参入余地はある」と米丸さんは話す。
最先端の半導体開発は、これまで線幅の微細化を進め、狭い面積に回路を形成することで製造コストの削減や消費電力の低減を図ってきた。1年半〜2年で集積度が倍増するムーアの法則の限界を指摘する声も出てくる中、トランジスタの構造を立体的にして素子を集積し、電流の漏れも抑える「GAA」(ゲートオールアラウンド)という技術が注目されている。
米丸さんが所属するチームは数十人で、大半は業界が舐(な)めた苦汁を知る50代。「積極的にいろんな技術を教えてくれる。知識を学ぶ場としても非常にいい」と、米丸さんは語る。
新技術の台頭を好機とみるのは鈴木さんも同じだ。集積度を高めるため複数のチップを1パッケージに実装するチップレット集積や立体的に重ねる3次元実装などの手法の重要性も増しており、鈴木さんは「日本で世界のスタンダードを確立したい」と意気込む。
量産化成功の先にも立ちはだかる壁
ラピダスが最先端半導体の量産に成功したとしたとしても、次は販売先の開拓が課題となる。80年代、90年代は日本の各メーカーが注力したテレビという供給先があったが、今は最先端半導体を多く使うアップルの「iPhone」のようなデバイスを生み出せていない。
経産省商務情報政策局デバイス・半導体戦略室の金指寿課長は、これまでラピダスの投資面を後押ししてきたが、「最先端半導体を使う側と、どうつないでいくのかというのが一番の課題」と説明。「自動車業界を皮切りに、先端半導体のユースケースを作る」と話す。
日本政府はラピダスに既に約3300億円の補助を決め、今年度の補正予算にも盛り込むなど総額2兆円と言われる開発にかかる費用を「国が一歩前に出て支援していく」(斎藤健経産相)構えだ。
ラピダスの社員数は12月現在280人まで増え、ベテラン中心の採用から来年度には初めて新卒の入社も決まった。ただしTSMCと比較すると規模が異なる。ラピダスは、27年の量産までに1000人規模まで採用を拡大したい考え。
10月中旬、米丸さんは米ニューヨーク州にあるIBMの半導体研究施設「アルバニー研究所」にいた。ラピダスが提携した同社の技術を日本に持ち帰るのが任務だ。
「IBMから技術を学ぶのも大変だと思うし、簡単に習得することができるものではない」と、米丸さんは言う。一方で、「日本で先端半導体の量産を実現するという熱い思いを持っている人たちがラピダスには集まっている。困難や厳しい状況に置かれても、量産実現にコミットできる」と語る。
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