「DXした!」と満足する総務が見落とす、本当にやるべきこと:「総務」から会社を変える(2/2 ページ)
DXで目指すべきは、データマネジメントを通じた「データ駆動経営」だ。DXと密接に関連する「データマネジメント」を、総務はどう進めるべきか。
洞察と改善、リアルタイムの意思決定
DXを推進する企業は、データを活用して業務プロセスや顧客(=従業員)エクスペリエンスを改善することを目指す。データマネジメントは、データから得られる洞察を基に戦略を立案し、ビジネスプロセスの最適化や製品・提供サービスの改善を実現する。
DXにおけるデジタルテクノロジーの進化は、リアルタイムでのデータ収集と分析を可能にする。データマネジメントは、組織が迅速に変化する市場や環境に適応し、リアルタイムで意思決定、施策を行うための基盤を提供する。
また、DXの取り組みの成功を評価するためには、定量的な指標が必要だ。データマネジメント、によって成果を定量化し、DXプロジェクトの効果を測定するための分析と評価が可能になる。
OODAループとデータマネジメント
フレームワークとして脚光を浴びているものに、OODAループがある。一般に聞きなじみがあり、有効なビジネスのフレームワークといえばPDCAだが、しかしこれは常に万能なフレームワークではない。PDCAは品質管理や生産管理用のフレームワークであり、状況や前提が変わらない中で最適解を見つけていくのに適した手法ではないのだ。VUCAの時代には、PDCAだけでビジネスを進めていくのは賢明ではない。
OODAループとは、刻一刻と変化する状況で成果を得るために、現在、ビジネスシーンの多くで使われているフレームワークだ。Observe(観察)し、Orient(状況判断、方向づけ)、そして素早くDecide(意思決定)して、Act(行動)する。PDCAと比べて状況への即応性に優れ、変化の早い昨今の環境で、チャンスを逃さないために重要な手法といえる。航空戦術家のジョン・ボイド氏が発案したものだ。
データマネジメントは、このOODAループと相性が良い。リアルタイムでのデータ収集と分析は、Observe(観察)が瞬時にできるということだ。OODAループの最初の一歩を可能とするものがデータマネジメントだと言える。
このように、DXとデータマネジメントは、デジタル時代における企業の競争力向上と持続可能な成長を支えるために密接に結び付いている。データを活用した迅速な意思決定と革新的なデジタルテクノロジーの導入は、組織が迅速かつ効果的に変化に対応し、競争優位性を確保するための重要な要素となる。
データマネジメントの課題
一方で、データマネジメントの実効性を担保するには、いくつかの課題がある。まずは、データの品質と一貫性だ。大量のデータを扱う際には、データの品質と一貫性を維持することが難しい場合がある。異なるソースからのデータを統合し、整合性を保つことが課題となる。さまざまなテクノロジーツールが導入されても、連携できていないと、その間でデータの正確性が損なわれる場合もある。ツール間のデータ連携も意識したい。
また、データの保護とセキュリティは常に重要な問題だ。機密性の高いデータが漏えいしたり、悪意のある攻撃にさらされるリスクを管理する必要がある。そして、技術は常に進化しており、総務部門は最新のデータ管理システムやインフラストラクチャの情報を集め、自社にとって最適なものを採用する必要がある。
著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)
株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)ワークDX推進機構 理事/ワークフロー総研 フェロー
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)ワークDX推進機構の理事、ワークフロー総研フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。
著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務』
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