ソニーのデザイン部門が札幌国際芸術祭に参画 クリエイティブセンター長に狙いを聞いた
ソニーグループのデザイン部門であるクリエイティブセンターが、アートイベント「札幌国際芸術祭 2024」にイニシアティブ・パートナーとして参画している。石井大輔ソニーグループ クリエイティブセンター センター長に、狙いを聞いた。
人口190万都市の札幌市で、アートイベント「札幌国際芸術祭(Sapporo International Art Festival、SIAF)2024」が2月25日まで開催中だ。初開催となった札幌国際芸術祭2014では故・坂本龍一氏がゲストディレクターを務め、礎を築いた。
そのSIAF2024に、ソニーグループのデザイン部門であるクリエイティブセンターが、イニシアティブ・パートナーとして参画している。今回は、同センターが「ロンドンデザインフェスティバル 2022」に出展した、実験的な展示「INTO SIGHT」に新たなコンテンツを追加。札幌文化芸術交流センター SCARTSで、国内初の展示をしている。
“リアルとバーチャルが融け合う世界へ”をテーマに、クリエイティブセンターのデザイナーと、札幌を拠点としているアーティスト平川紀道氏が創作したコンテンツを披露した。空間に足を踏み入れると、来場者の動きに呼応するように光、色、音が変化し、一度限りの景色が絶えず生み出される。
透明のガラス壁面や、光を反射する天井、床で構成される空間に、同社の高精細なLEDディスプレイ Crystal(クリスタル) LEDとセンサー技術を組み込んだ。センサーがリアルタイムに人の動きを捉え、その動きに応じたインタラクションを映像や音楽で表現。没入感のある空間を体感できるようにした。
ソニー・ホンダモビリティでデザイン&ブランド戦略部のトップも務める石井大輔ソニーグループ クリエイティブセンター センター長に、参画の狙いを聞いた。
石井大輔(いしい・だいすけ)1992年ソニー入社。ハンディカム、ウォークマン® 、AIBOなどのプロダクトデザインを担当。2度の英国赴任を経て、AIロボティクス、モビリティ、ドローンなどの新規領域や、R&D、コーポレートブランディング等幅広い領域のID/UIUX/CDを含む統合的なクリエイティブディレクションを担う。2021年よりセンター長に就任。2016/2021 iF Award 審査員(ドイツ)、2019/2022 DFA Award審査員(香港)、2022-2023 ミラノ工科大学客員教授
ソニーの技術が詰まった展示 市民に訴求する意味
――なぜSIAFに関わることになったのですか?
われわれは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というソニーグループのパーパス(存在意義)のもと、さまざまな活動をしています。SIAFの「アート、サイエンス、テクノロジーが交差する新しい表現を通して未来を考える」という考え方には、当社と共振するところがあり、参画することにしました。
もともとわれわれクリエイティブセンターは、ソニーのテクノロジーや、クリエイティビティを対外的に発信するイベントを数多く開催しています。イタリアの「ミラノデザインウィーク 2018」にも出展し、テクノロジーが人の生活に寄り添う存在である「Hidden Senses」(隠された感覚)というコンセプトを、センシングデバイスなどを用いて表現しました。
「ミラノデザインウィーク 2019」でも「Affinity in Autonomy <共生するロボティクス>」というタイトルで、ロボティクスと人の共生をテーマにした展示をしました。それをご覧になったSIAF2024のディレクター小川秀明さんとお話しをして、オーストリア・リンツ市運営の(先端技術、科学、メディアアートなどの教育文化機関)アルス・エレクトロニカにも何度か足を運びました。
それ以前にも、ソニーグループの研究開発チームと、アルス・エレクトロニカとの間には密接な交流があり、技術的な関係性を構築してきました。それを強化する形で、AIをテーマにしたイベントを企画していましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、しばらく活動が止まっていました。そういった中、小川さんがSIAF2024のディレクターに就任されて、お声がけいただいた次第です。
INTO SIGHTはもともと、22年9月にロンドンで開かれたデザインフェスティバルで約10日間展示された作品で、非常にご好評をいただきました。当時は8種類の映像のパターンを用意しました。今回は小川さんとも話し合い、SIAF2024のテーマ「LAST SNOW(ラストスノー)」から、黒い背景に雪の結晶をイメージした粒子が揺れ動くものなど3種類を追加しました。
――ソニーグループはSIAF2024に対して「イニシアティブ・パートナー」という関わりですが、これはどんな関わりなのですか?
クリエイティブの面で、未来のテクノロジーや環境問題などを体験・想起できるアート作品やプロジェクトなどを共に作り上げていく意味でのパートナーになります。
われわれはミラノやロンドンなどさまざまな芸術祭に参加していますので、デザインフェスや芸術祭の意味を実感していますし、市民が気軽にアートに触れられる場には、非常に意義があると考えています。
先ほども幼いお子さまもいらっしゃいましたが、子どもたちがアートに触れ、想像力を養っていただくのは、将来の街の発展にもつながるのではないかと感じます。
ソニーのコンセプト、人に寄り添うテクノロジーを体感していただくことで、ソニーのデザインのクリエーションを札幌の皆さんにお伝えできます。これはわれわれにとっても非常に有難いことです。
今回の展示も約200インチ相当のクリスタル LEDや、業務用のイメージセンサーなどソニーグループのテクノロジーを使い、人の動きと融合させた展示にしています。
「人のやらないことをやる」というソニーのDNA
以上が石井氏へのインタビュー内容だ。
ソニーは、創業して間もなくデザインの重要性をいち早く認識し、デザイン室(現:クリエイティブセンター)を1961年に設立した。
「人のやらないことをやる」という同社のDNAのもと、クリエイティブセンターはプロダクトデザインからエンターテインメント、金融、モビリティなどの事業領域に活動の幅を広げている。今回の芸術祭参加も、同センターが手掛けるデザインの可能性を開拓し続ける取り組みの一つといえるだろう。
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