GDPで日本を抜いたが、物価高に悩むドイツの国内事情(2/2 ページ)
2023年の日本のドル建ての国内総生産(GDP)がドイツに抜かれて4位に転落したことは大きな話題になった。「ドイツ経済の強さの秘密」を特集するメディアもあったが、ドイツ在住の医師でジャーナリスト、村中璃子氏は「庶民には実感がない」と指摘する。物価高がのしかかるドイツ経済の現状をリポートする。
日本円に頼る日本人にとって状況はさらに厳しい。2019年2月に1ユーロ=125円だった日本円は、現在では約160円。つまり、400円で買えたケバブは1200円に、500円で食べられた学食は900円になった。筆者のマンションの家賃もこの間、日本円換算で月に10万円ほど上がった。
もっとも、ドイツでは賃金も着実に上昇を続けている。日本円換算では、23年度の平均年収は5万3000ユーロ(848万円)と日本の平均年収458万円の倍に迫る勢いで、最低賃金も12.82ユーロ(約2050円)と、2000円を超えた。
しかし、ドイツの税金や社会保障費は高く、手元に残るのは収入に関わらず額面のおよそ半分だ。これまでは鉄道や航空など、組合の強い業界でしか起きていなかった賃上げ要求デモは、農業用燃油減税の段階的廃止が決まったのを機に農業者(農協)の減税廃止反対デモへと拡大。今年に入ってからは、「賃金の上昇が物価上昇に追いついていない」などとして、全国の大学病院、大手スーパーマーケットや映画館、長距離バス会社など他の業界にも拡大している。
そんな中、ドイツ株価指数(DAX)は連日、史上最高値を更新している。だが、貯金はおろか、株を持たない庶民に株の話は関係ない。コロナ以降、対円では20%超上昇したユーロも対ドルでは下落しており、海外旅行も厳しい。筆者の周りでも「一切の外食をやめた」「パンはパン屋でなくスーパーで買う」「映画館にもサッカー観戦にも水筒を持っていく」といった具合に、節約ムードは高まるばかりだ。ドイツの庶民の旅行先として、ワンコイン=3ユーロ(約480円)で1食が食べられ、お茶や水まで無料で出てくる日本が人気なのもうなずけるだろう。
村中璃子(むらなか・りこ)
医師、ジャーナリスト。京都大学医学研究科非常勤講師を務める。世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局では、パンデミック対策および新興・再興感染症対策に携わった。科学誌ネイチャーほか主催のジョン・マドックス賞受賞。近著に『パンデミックを終わりにするための 新しい自由論』(文藝春秋)。
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