日本で配送センター建設を視野
日本のアーティストにはいわゆる「ファンクラブ」が昔からある。ある意味、伝統的な形で運営されてきた。他方Wevserseは、デジタル時代のファンの推し活ツールともいえる。業界の慣習が残る日本のエンタメ市場において、Weverseをより浸透させるために、どのような施策を講じていくのか。
「人間には情緒的なところもありますから、フィジカル的な手法も必要ではあると思います。ただ今後は、デジタル化というトレンドには逆らえません。グローバル共通のプラットフォームとして特化するために、どうバランスよく組み立てられるかを模索しています」
メディアブリーフィングでは、WEVERSE JAPANとして「決済と物流の強化をしたい」と語っていた。グッズ販売をよりスムーズにしたい意図があるからかと聞くと「その通りです。ファンはコレクション集めに喜びを感じる人が多いのです」と話す。
「私たち自らがコントロールできる物流システムも一定以上は築いておかなければいけないと考えました。これは、配送事情が発達している日本や韓国だからできることでもあります。より広い範囲の地域にいるファンのニーズに応えるため、希望としては、いつかは日本の倉庫からグローバルに配送できるようになるといいですね」
他の事務所のアーティストにも使ってもらう努力
HYBEは3月、大手音楽会社ユニバーサルミュージックグループとグローバル独占流通契約を締結した。ユニバーサル傘下のアーティストが今後、Weverseに参加しても何ら不思議ではない。
すでにAKB48、BLACKPINKのほか、Conan Gray、eillなどがWeverseにコミュニティーを開設したように、HYBE LABELS以外のアーティストを増やす戦略を取っている。ムンGMは「こちらから、他の事務所やアーティストにアプローチします。将来的に幅広い分野の著名人に参加していただきたいですね」と話す。
仮に筆者がHYBE LABELS以外のアーティストだとすると「Weverseを使いませんか?」と誘われても、他の事務所発のアプリだから、加入することにちゅうちょするだろう。競合の音楽事務所の不安をふっしょくするのは容易ではなさそうだ。だが、実際にコミュニティーを開設しているアーティストはHYBE LABELS以外のアーティストが90%を占める。
「WeverseはHYBEの傘下ですが、独立した事業であり法人です。あくまでHYBEの傘下ではあるものの、プラットフォーム企業として、中立性を保とうとしています。純粋にさまざまなレーベルやアーティストのニーズに合わせてサービスを提供し、サポートし続けてきました。多くの企業が受け入れてくれた背景には、そこが理解され、信用を得たのだと思います」
Weverseで得られたデータについては、アーティストやレーベル間でオープンにはせず、セキュリティを維持している。だが、アーティスト側から要望があれば、自分のファンダム(ファン集団)をより理解するために、データを共有することもあるという。
「データをシェアして、また、次にこんなイベントをやったほうがいいのではないかと話したり、提案したりすることもあります。データを独占しようとする考えはありません」
「音楽業界は最もデジタル化が進んでいない」
以上がインタビュー内容だ。ムンGMが取材中に、こう語っていたのが印象的だった。
「映画、アニメなどのいろいろなエンタメのコンテンツがありますが、私が見る限りでは音楽業界が、最もデジタル化が進んでいないように思えます。逆にいえば、不便さに人々が慣れてしまったんでしょうね」
ムンGMはもともとゲーム業界にいただけあって、デジタル化がいかに重要かを理解していたのだろう。この取材のあと、たまたま話した20代の日本人女性がWeverseをインストールしていて、ムンGMの日本市場攻略が順調であることを実感した。日本でのビジネスを理解しているムンGMが組織を率いることで、Weverseはさらに広まりそうな気配だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
SEVENTEENの「THE CITY」 HYBE JAPANトップに聞く新時代のプロモーション
BTSやLE SSERAFIMなどのスターを輩出し続けるエンターテインメントライフスタイルプラットフォーム企業HYBE。同社がグローバルに展開しているユニークな公演ビジネスモデルが「THE CITY」だ。同社の日本本社HYBE JAPANのハン・ヒョンロックCEOに戦略を聞いた。
BTS、SEVENTEENを擁するHYBE ゲーム事業に参入するワケと勝算
数々のグローバルアーティストを輩出してきたHYBEが、なぜゲーム事業に本腰を入れるのか。同社のゲーム事業を手掛けるHYBE IMのチョン・ウヨン代表取締役を直撃した。
投資額2200億円 韓国にオープンした米・統合型リゾートが日本を“狙い撃ち”したワケ
韓国でIR「インスパイア(INSPIRE)」が、仁川国際空港西側にソフトオープンした。ホテル、カジノ、ショッピングモール、ウォーターパークなど多彩な施設を備えている。特にインスパイアが注力しているのが日本市場だ。
きゃりーぱみゅぱみゅ・VERBALが語る「日本音楽ビジネス」の現在地 「世界は日本を求めている」
昨今、日本発の音楽が世界で人気を博している。これまでは経済規模が大きいことから“鎖国”していても問題なかったところで、何が変化してきているのか。世界で活躍するきゃりーぱみゅぱみゅさんや仕掛人のアソビシステム・中川悠介代表取締役、VERBALさんらが語った。
YOSHIKIに聞く日本の音楽ビジネスの課題 THE LAST ROCKSTARSで「世界の市場を切り開く」
日本から世界を目指すロックバンド「THE LAST ROCKSTARS」。世界の市場に挑んできたYOSHIKIを中心に、日本の音楽ビジネスの課題と、同バンドによって新たな挑戦を始めた理由を聞いた。
6471室を一斉開業する欧州最大ホテルチェーン 「投資は回収できる」と自信のワケ
日本に商機を見いだした欧州最大のホテル運営、仏アコーは2024年4月1日、日本初上陸となる「グランドメルキュール」12軒と、東京・銀座などで展開している「メルキュール」11軒の計23軒、6471室を一斉開業させる。CEOへのインタビューから日本を“狙い撃ち”した理由や、市場攻略のカギに迫った。

