効率追求の落とし穴 「レジなし店舗」が見逃しがちな重要ポイントとは?:がっかりしないDX 小売業の新時代(3/3 ページ)
長年、小売の現場に身を置く著者は、国内外のレジなし店舗が効率性を追求するあまり、ある重大なポイントを見逃しているのではないか、と指摘する。レジなし店舗のあるべき姿とは――。
レジなし店舗における「人」ならではの強み
筆者は無人店舗での購買体験をすることで、人の役割の重要性を改めて認識しました。店舗全体が「自動販売機」となるならば、人がいる意味はないと思われがちです。しかし、人がやってきたからには、デジタル化だけでは対応できない理由があるはずです。
コンテナ型に限らず、無人の店舗は効率性を追求するあまり、顧客との接点を失ってしまう危険性があります。
Amazon Goを始めとしたレジなし店舗の多くには、店員が配置されており、商品の補充やトラブル対応、そしてフレンドリーな接客を行っています。店員は、AIやセンサーでは対応できない、人ならではの強みを発揮する重要な役割を担っているのです。例えば、商品の場所を尋ねられた際に丁寧に案内したり、商品の特徴を説明したりすることで、顧客満足度を高めています。
前回取り上げた、Amazonが外販するレジなし決済システム、Just Walk Outテクノロジーを採用した米ニューヨーク・ラガーディア空港のターミナルにある売店WHスミスにおいて、筆者は自身の買い物体験後に店外から観察していました。その時に見かけた光景を紹介します。
乳母車を押した女性が入店しようとクレジットカードをタッチしていましたが、ゲートが邪魔でうまく入店できませんでした。すると、店内で補充作業をしていた女性従業員が歩み寄り、声をかけました。
従業員はゲートを手で押さえて、女性が乳母車を押したまま入店できるようにサポートしました。そして、入店後に何か困ったことがあったら声をかけてね、というニュアンスの言葉をかけていました。
こういった買い物客のサポートをする人がいる店舗と、いない店舗のどちらが魅力的な店舗でしょうか。
コストだけに目を向けて完全な無人化を目指すのではなく、AIと人がそれぞれの強みをことが重要なのです。
人がやってきた理由を探ることで、店舗の役割を拡大することができます。AIにできない店舗従業員独自の役割は、来店客の困りごとを手伝うことで、顧客との関係性を深めることにあります。
一方で、人がやってきた業務の中には、デジタル化しても支障がないものもあります。決済業務そのものは、デジタル化しても支障のない部類だと、数多くのレジなし店舗で購買体験をした筆者は感じます。それらの店の多くでは、上述したようなフレンドリーな接客を通常の店舗よりも高確率で観察できたのです。
これらの業務をAIやセンサーに任せることで、従業員は顧客との関わりにより注力でき、大きな力を発揮できるようになります。
AIやセンサーには限界があることも事実です。複雑な状況の判断や、予期せぬトラブルへの対応など、人の柔軟な対応力が求められる場面は数多くあります。今後、レジなし店舗の技術はさらに進化していくことでしょう。それと同時に、人の役割を見直し、AIと人が協調して働く新しい店舗運営のあり方を模索していく必要があると筆者は考えます。
技術の進歩を取り入れながら、顧客接点における人の役割を再定義していくことが、これからの小売業には求められているのです。
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