変わる「推し活」 SNS分析から分かった「偏愛性」の高まり(2/4 ページ)
博報堂「買物欲大調査」をもとに、ソーシャルリスニングから見えてきた生活者の購買行動に関する“未来の兆し”を読み解く。
“当たり前化”によりSNSで顕在化しない生活者ニーズも
河野: 今回の調査におけるソーシャルリスニングでは、買物欲の「長期的視点」と「未来の兆し」を捉えることがポイントだったかと思います。SNSを通じて生活者の購買行動の「兆し」を捉えるというのはどういうことなのでしょうか。
橘田: 私たちは、リアルタイムに発話されるn=1のインサイトから、マーケットの”兆し”を捉えることを重要視しています。
SNSは他のメディアと比較してもリアルタイム性が強く、生活者のトレンドのサイクルをいち早く捉えることが可能です。さらにそれだけではなく、まだ潜在的な話題にとどまっており、ニュースなどで取り上げられていない小さな変化を観測できることも特徴的です。
このような市場全体に影響を与える大きな“変化”と、n=1の間で盛り上がりを見せている生活者の小さな“兆し”の双方を捉えることが、ブランドを成長させる打ち手につながるのではと考えます。
河野: 今回の「買物欲大調査」において、ソーシャルリスニングで見えてきた「長期的視点での買物欲」と「買物欲の未来の兆し」の2つのポイントについて詳しくおうかがいしたいと思います。
まず1つ目の長期的な視点について。 SNS全体の投稿に対する、買物に関連する投稿のシェアは増加しており 、生活者の「買物欲」が全体的に高まっていることが分かります。一方で、買物研では生活者の“買物欲を刺激する20のツボ”のうち、今の生活者が重視しているのはKEEP(買物欲を逃さない)系のツボであると提言(前回の記事を参照)しましたが、実はSNS上ではその伸びは観測できませんでした。この理由について橘田さんはどう思われますか?
橘田: KEEP系のツボである「フリクションレス(精神的・物理的な労力が少ないこと)」については、例えば「キャッシュレス」の文脈から考えると分かりやすいかもしれません。
これまでは、いわゆる“ポイ活”に対するメリットを感じていた生活者がいち早くライフスタイルの中に取り入れていた一方で、多くの生活者にとっては、システム障害や使いにくさなど、自分たちの生活に取り入れるにはまだ高いハードルが存在していたことが見受けられました。 その状況が大きく変わったのがコロナ禍です。「小銭を触りたくない」という生活者のマインドが強まったことも、キャッシュレス化が加速し一般化した大きな理由の一つです。
生活者のニーズが高まるとともに技術も発展し、コロナ禍ではキャッシュレス系の話題を取り上げたニュースも多く報じられました。そして現在では日常的にキャッシュレス決済を選択するのが多くの生活者にとって当たり前になっており、生活者自身もその行動に慣れてきていることから、SNS上での言及という意味では比較的落ち着きを見せているのではないでしょうか。
河野: 同じくKEEP系のツボである「損失回避(失敗や損を回避したい)」などはどうでしょうか。今まさに物価高騰による値上げが顕著になっており、「自分が損しないように、なるべくお金を使わない」といった生活者のマインドも高まっていると思います。
実際、購入を検討する商品の価格と容量を見比べ、どちらがお得かを判別するアプリが話題になったりもしましたが、SNS上ではあまり伸びていなかった要因はどこにあるのか気になりました。
増田: 話題や情報がなくなったわけではなく「損失回避」についてもやはり“当たり前化”しているのではないでしょうか。 “お得情報”の目新しさがなくなり、SNSでもそれほど伸びなかったのではと考えています。
また、“タイパ”を重視するZ世代の間では、いろんなコンテンツを消費するために時間を効率化し、とにかく「ハズレを引きたくない」という思いが強いんです。あらかじめ商品の内容や中身を知ってから購入する「ネタバレ消費」もトレンドになっていますが、「損失回避」における人々の根本的な捉え方として、失敗したくないという思いがあります。
ただ、話題にするほどの内容でもないですし、人にシェアして共感が広まるものでもないため、SNSではあまり顕在化されなかったのかもしれません。KEEP系のツボ、つまり「失敗したくない」「労力をかけたくない」という生活者のニーズが高まり「当たり前化」「透明化」したことにより、逆にSNSでの伸びが観測されなくなったのではないかと考察しています。
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