変わる「推し活」 SNS分析から分かった「偏愛性」の高まり(4/4 ページ)
博報堂「買物欲大調査」をもとに、ソーシャルリスニングから見えてきた生活者の購買行動に関する“未来の兆し”を読み解く。
「コラボ施策」成功の鍵は?
河野: 推すきっかけはひとつでも、途中で枝分かれして派生していくイメージはすごく面白いなと感じました。このような状況があるなかで、企業が「偏愛性」に対して取り組めることはどのようなものがあるのでしょうか。
増田: 企業と生活者の接点をたくさん用意しておくのに加えて、その企業に対して、何かひとつでも生活者が共感できるポイントがあれば、そこからその企業のことを好きになっていくきっかけになるでしょう。例えばアニメとコラボをし、アニメファンと企業がうまく関わり合うことで、アニメファンにブランドも好きになってもらうというのは、よくある事例だと思います。
橘田: まさに増田が話したのは、生活者の好意を転移させる考え方ですね。単にブランド認知を取りにいくのではなく、生活者のエンゲージメントを高めた状態で認知も獲得していくことは、コラボ施策を行う上で大事なポイントです。
アニメや漫画、アイドルなど「コンテンツの“顔”ではなく“物語”とコラボする」ことがかなり肝になるわけで、ファンが好きな文脈を把握し、心が動くポイントを理解できるかが、コラボ施策を成功させるのに不可欠な要素と言えるでしょう。「推しの推しは推しになる」という文脈もそうですが、キャラクター一辺倒ではなく、さまざまな角度でファンに刺さるポイントを探っていくことが重要になります。
増田: 逆に偏愛性が強まっているぶん、コラボ先のコンテンツをよく知らないまま「可愛いから、人気だから」という表面的な理由だけで進めると、コンテンツとブランドが噛み合わずにファンの気持ちを捉えられない状況にもなりかねません。コラボの仕方によっては、ブランドのファン離れや批判を浴びてしまう可能性もあり、そう簡単にうまくいくようなことではないとも感じますね。
「ブランドの世界観に没入できるか」が重要に
河野: これまでは「フリクションレス」のように、手間をいかになくすかが重視されていましたが、今後はたとえ手間があっても「推せる」ような、プロセスを作ることが重要ということですね。
続いて、企業やブランドのコンセプトや商品に込めた思い、売り場や接客へのこだわりなど「ストーリー性」が伸びていた要因についてもうかがえればと思います。
橘田: これまでは店頭やCMなど企業発信のメッセージを中心に、生活者は商品を理解し好意形成していました。それがSNSの台頭によって「この商品はこういう思いで作っている」という情緒価値やプロセスを可視化できるようになったこと、さらに第三者が自分の見つけたいいものやサービスをSNSで紹介することが増えたことで、ストーリー性も伸びてきたのではと考えています。
一つ一つのブランドコンセプトや理念は、万人ウケするものではなかったりもしますが、特定の生活者に刺さるような体験やストーリーがあると、そのコミュニティの中で共感され拡散されやすくなる傾向があると思います。
増田: ストーリー性が伸びたのは、生活者のニーズに合わせた楽しい体験を作れる時代になってきているというのが大きい気がします。特にZ世代はパーソナライズされた体験を求めている傾向があり、売り場一つにしても、ユーザーごとに寄り添った体験設計が重要になってきていると考えています。
橘田: これからは「いかにブランドの世界観に没入できるか」が重要になってくると考えています。商品のコンセプトや思いを単に伝えるのではなく、商品が作られる過程や体験を生活者が理解し、没入していくことで、ブランドとの接点が近くなってくるわけです。また、コロナ禍に学生時代を過ごした最近のZ世代は、イベントなどのリアルな体験を真新しく感じているといいます。
河野: そういった意味では、企業は偏愛性やストーリー性を通じて、没入感の演出であったり、そのブランドや売場「らしさ」を表現したりすることで、生活者の買物欲の増進につながり「これ『で』いいより、これ『が』いい」と選ばれるようになるかもしれません。
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