着物の「脱恐竜化」目指す 京都の老舗「小田章」5代目が語る、120年目の事業転換:金子國義コラボの呉服屋(2/2 ページ)
明治末期に京都市で創業した呉服屋「小田章」。昨年は人気アーティストHYDEとコラボしたファッションブランド「WaRLOCK」(ワーロック)を立ち上げた。120年近く続く老舗企業は、業界の衰退を、どう見ているのか。小田毅社長に、生存戦略を聞いた。
HYDEとコラボした理由「変わらないために変わり続ける」
――小田章が本来目指すべき道とは何だと考えていますか。
「ジュサブローきもの」が一世を風靡していた当時、小田章は「戦う呉服屋」といわれていました。旧態依然とした着物業界の中で、さまざまなことに挑戦し続けていたのが父でした。昔ながらのいいものを残すために、守っているだけでは守れないものがあることを、私もよく理解していました。変わらないために変わり続ける姿勢を、父から学んできたのです。
そしていま注力しているのが、HYDEさんとコラボしているWaRLOCKです。WaRLOCKでは、着物業界が抱える課題にも挑戦したいと考えています。これは5代目の私が一世一代を賭けた「戦う呉服屋」としての小田家が追いかけるべき着物のゴールだと捉えています。
――着物業界の課題を、どう捉えていますか。
本気で変わろうとしていないのが問題だと思います。もちろん着物を伝統として、そして日本を代表するオートクチュール(高級仕立服)として守っていこうとする動き自体には賛成です。オートクチュールとしての在り方は、当方でもまだ模索していて、当社にその部署も設置しています。
温故知新は当社の座右の銘です。ただ解決策はその延長線上には存在せず、むしろ、過去の枠を超えたところにあるのではないでしょうか。業界はまだまだ「このまま守りたい」という思いのほうが強く、「このままで何とかなる」と信じているように思います。ただ、私はこのままではうまくいかないと感じています。正しい進化の在り方が問われていると思います。
「着物の着方はこうでないといけない」という固定概念があったり、業界で働く上でさまざまな国家資格が必要だったり、守ること自体がビジネスになってしまっている面もあります。そうなると着物はますますファッションから遠ざかる一方です。
――意外と知られていませんが、着物を仕立てる「和裁技能士」は厚生労働省の国家資格です。着付けにおいても「着付け技能士」は2010年から同じく厚労省の国家資格になり、より入口が狭くなっていますね。
着物も他の衣服と同様、本来その着方は自由なものでした。もともと、その人の個性を表すファッションに対して「こうでなければならない」なんていう決まりはないのです。こういった流れが、着物をファッションとしてつまらないものにしています。「お国の力をお借りして守ろう」「伝統産業だからなくさないように守ろう」という考え方自体を否定するわけでもありません。ただ、着物の進化を止めたくないと思うのです。
私は、必要のない衣服は滅ぶしかないと考えています。例えば、以前は着崩したファッションの代表格とされていたアディダスの服は、今やグッチなどのハイブランドとコラボしています。昭和の時代には、スニーカーを履いてホテルに食事に行くことはありえないことでした。革靴でないといけなかったわけですね。ところが今ではこうしたフォーマルな場でもスニーカーは市民権を得ています。
こうしたファッション一つをとってみても、20〜30年前の常識が通用しなくなることが当たり前に起きています。これは着物の歴史を振り返ってみても同様なのです。ファッション自体が時代と共に移り変わるものなのに、着物文化を不変のものとして守ろうとしていくのは、さながら“恐竜”のようだと思います。
もちろん、工芸品や美術品として高く評価して、後世に残していくことは大切です。ただ、それはおしゃれなもの、ファッションとしての産業にはなっていないのではないでしょうか。金子先生もおっしゃっていましたが「締切のない絵」と同じで、それは趣味であって仕事ではないのです。私は、着物を仕事にしていて、常におしゃれなものであってほしい。だからこそWaRLOCKを通して、着物を現代に進化させたファッションにしていきたいわけです。
借金を完済するまでの間、正直、生きた心地がしませんでした。それでも、ここまで生き残れたのは、周りの方々の支えがあったからです。「今できることを全力でやる」と自分に言い聞かせ、歩みを止めず進み続ける中で、特別な恩人たちが導いてくれました。昨年亡くなった国際文化学園の平野徹理事長のことは兄のように慕っていて、私のことも本当にかわいがっていただきました。89歳でなお現役で活躍し、WaRLOCKの海外進出も母のように応援してくださっている美容研究家の小林照子先生には、尊敬と感謝の念を抱いています。
――小田毅社長は5代目になるわけですが、老舗企業を後世に残す上で何が大切だと考えていますか。
私には幼い娘しかいないので、むりやりこの会社を継がそうという考えはないですね。もちろん、小田章という企業そのものは存続させたいので「誰に継承するのが最善か」と考えているのが正直なところです。
理想を言えば、業界外の人に継承してもらいたいと考えています。その人が着物を心から愛していて、急成長を求めるのではなく、形を変えながらでも心を伝えてくれるような方であればうれしい。私のような業界内の人間では、あれもこれも投資するのが難しいため、やはり資本力のある業界外の人の力が必要だと感じています。30年以上にわたるバブル期の負債を完済し、そのための決意がようやく固まったところです。
編集部より:10月16日(水)午前7時6分に後編記事【京都100年企業が着物アパレルに挑戦 HYDEコラボのブランド「WaRLOCK」の狙いとは】を公開します。お見逃しなく!
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