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日本からデカコーンは生まれるか? 有力候補、マネーフォワードとフリーを徹底分析【前編】グロービス経営大学院 TechMaRI 解説(2/3 ページ)

日本国内でデカコーン規模の時価総額企業へと成長を目指す姿勢が顕著に見られる、マネーフォワードとフリーの2社に着目し、スタートアップがデカコーンに向かう上で、何が必要かを考えてみたい。

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百家争鳴のERP業界

 両社の主力事業は、SaaS型会計ソフトから発展したERP事業だ。ERPとは、Enterprise Resource Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング)の略で、システムの文脈で用いる際には、企業内の多様な業務の情報をつなぎ、管理、分析するためのソフトウェアシステムを指す。

 ERPの業界構造をひもとくと、百家争鳴ともいえる複雑さが見える。

 顧客は、中小企業からグローバル企業まで幅広い。また中小企業と一口に言っても事情はさまざまだ。オーナー企業なのかグローバル企業の子会社なのかといった資本関係や拠点数はもちろん、業務の流れ、IT機器の導入状況や通信環境、在庫や仕掛品の有無、対応すべき業法、意思決定プロセスなど、あらゆる点で違いがある。そのため、各社でERPを導入する際に考慮すべき点は大きく異なる。

 こうした多様な顧客の要望に応えるべく、コンピューター環境の進化にあわせて新たなERP事業者が参入していった。加えて、大企業向けの事業者はより小規模事業者へ、小規模事業者向けの事業者はより大きな事業者へと事業領域を拡大していった。


コンピューターの進化と参入事業者

 ERPの起こりは、ドイツのSAPだ。大型汎用機の普及と共に会計、受発注、在庫など多様な基幹業務システムを統合するERPを1973年に発売した。

 日本では1960〜70年代にかけて、大塚商会、富士通、NEC、オービックなどが、国内の中小企業用事務処理専用コンピューターに基幹ソフトウェアを搭載して提供した。この基幹ソフトウェアは、後のERPへとつながるものだった。また、会計事務所業務の効率化を行う事業者として、ミロク情報サービスらが現れた。

 この時代は、メーカー間の互換性が低かった(クローズドシステム)ため、コンピューターメーカー各社が独自の業務ソフトウェアを搭載し、顧客に提供していた。

 1980年代には、パソコンと標準的なOSの普及に伴い、異なるメーカー間の互換性が上がった(オープンシステム)。これにより、ソフトウェアメーカーにとって、パッケージ製品を作る魅力が高まった。こうした変化を背景に、パッケージ会計ソフトを開発し販売するオービックビジネスコンサルタントや弥生が登場した。

 2010年代になると、クラウド環境で会計ソフトウェアを提供することが技術的に可能になり、フリーやマネーフォワードが参入した。

クラウド型ERPを後押しした環境変化

 クラウド技術の進歩と、クラウドサービスへの社会的信頼感が醸成され、クラウド型ERPが導入されはじめた。一方、その普及には時間がかかっていた。2020年時点でも給与・財務会計・人事でのクラウドサービス利用率は4割未満だった(※4)。当時サービス利用を阻む理由として挙げられていたのは、既存システムの改修コストや情報漏洩リスク、ネットワークの安定性やコンプライアンスへの不安だ。

(※4)総務省「通信利用動向調査」より

 こうした中で、クラウド型ERPを普及させる大きな社会的変化があった。法制度の変更だ。

 度重なる法制度の変更は、ソフトウェアアップデート頻度を高め、自動的にアップデートされるクラウド型のメリットが高まった。具体的には、2019年10月の消費税率変更や度重なる電子帳簿保存法改正(2020年10月に電子取引の際経費の領収書原本保存不要。2022年1月電子取引のデータを電子保存義務化)、2023年10月のインボイス制度施行など企業のバックオフィス業務のDX推進を後押しする法律が制定された。これらの変更により、従来、紙で保管していた請求書や領収書を電子取引データとして保存したり、詳細に指定されたインボイス記載項目を自動的に埋められるソフトウェアを活用したりするメリットが高まった。

 加えて新型コロナの感染拡大を受け、2020年4月に緊急事態宣言が発令される中で在宅勤務対応に迫られ、オフィス外で業務遂行できるクラウドのメリットが高まった。政府は、IT導入補助金や小規模事業者持続化補助金により、こうした中小企業の対応を促した。

 こうした動きにより、クラウド型ERPの市場規模も着実に伸びた。IT調査会社アイ・ティ・アール(東京都新宿区)のまとめによると、2019年の市場規模360億円から、2023年1030億円の3倍強に伸びたと推定されている。

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